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場所は必ずしも学校でなくてもいい。街で子どもを育て、先生にゆとりを

  • 建石尚子

「今の街は、いい意味で学校にすべてを求めていない感じがしています」

そう話すのは、東京都台東区で暮らす楠本美央(くすもと みお)さん。12年間、公立小学校の教員として働いた後、現在は小学校の非常勤講師をしながら、地域コーディネーターとして活動を広げています。

「学校にすべてを求めていない」とは、どういうことなのでしょうか。その奥にある楠本さんの思いと、学校と地域の両方で働くからこそ見えてきたことを聞きました。

「週4学校、週1地域」という働き方

—— 現在は、どのような働き方をしていますか?

週4日は小学校の非常勤講師として働いて、週1日は地域のジェラート屋さんで通りかかった人に無料でコーヒーを提供するフリーコーヒーをしたり、教育や地域をテーマとしたイベントの企画・運営をしたりしています。公的な立場ではないものの、ジェラート屋さんや知人が運営している団体が主催しているイベントでは地域コーディネーターとして関わらせてもらっています。

※地域コーディネーターとは、地域住民等の中から地域と学校の橋渡し役として活動する人。基本的には教育委員会に配置される。
(出典:https://www.mext.go.jp/content/20210526-mxt_chisui02-000015394_4.pdf

—— どのようなきっかけがあって、学校と地域の両方で働くことにしたのでしょうか?

自分のライフステージが変わっていったことが理由の一つです。子どもが生まれて子育てをしながら働くようになってから、学校の中でやりがいを感じながらやっていたことがどんどんできなくなっていったんです。それまでは、自分の仕事はすべてやった上で、学校の授業内容に合わせていろんな人を講師に招いたり、土日の学校でワークショップをやったりしていました。

子育てをするようになってからは定時で退勤するようになり、校務分掌の仕事さえも減らしてもらうようになりました。そんな状況で、先生たちを巻き込んで「こんな企画やりませんか?」なんて言えなくなってしまったんです。もちろん誰もやるなとは言っていないのですが、どうしても縮こまってしまう自分がいました。

これまでと同じ働き方が難しくなってきたことに加え、もう少し地域と関わりたいなという気持ちもあったので、地域コーディネーターのような立場で地域や学校と関わっていく働き方も視野に入れて考えるようになりました。私が住んでいる地域では公的な立場として地域コーディネーターの配置があるわけではないので、個人の活動として地域のつながりを広げられないかと模索しています。

—— ジェラート屋さんでの活動は、具体的にどのようなことをしているのでしょうか?

この前は、ジェラート屋さんで絵の具遊びのワークショップをやってくれた方がいました。その方は美大出身で描くことが好きなのですが、今は全然違う分野の仕事をしていて。子育てがひと段落したタイミングだったそうで、「街の子どもたちに向けて、音楽を聴きながら絵の具で遊ぶ場をつくりたい」と言ってくれたんです。アイデア出しから始めて、当日の運営まで一緒にやっていきました。

その方との出会いは知人からの紹介だったのですが、ふらっとコーヒーを飲みに立ち寄ってくれた人とつながり、それをきっかけに一緒にワークショップを開催することもあります。

街に救われた経験を、街に返す

—— 地域での活動のどのようなところにやりがいを感じますか?

フリーコーヒーをしていると、普段ジェラートを買いに来る人とは違った人との出会いがあります。何かを買いに来ただけだとなかなかそこから交流が生まれることはないけれど、立ってコーヒーを飲みながらだと自然に会話が生まれることがあります。そういう場面は、すごく好きなんですよね。

絵の具遊びのワークショップをしてくれた方は、「子どもたちと描くワークショップをやってみたかったけれど、教室を開くほどではなくて…」と話してくれました。場を提供して、企画から運営までを一緒に考えながらサポートさせてもらうことで、新しいことに挑戦するハードルはぐっと下がると思うんですよね。その体験をともに味わうことができるのは、私自身の喜びにもつながっています。

—— 何が地域で活動する原動力になっているのでしょうか?

私自身が、街に救われた経験があったんです。今から10年くらい前、家庭のことで全く先が見えなくなるくらい苦しい時期がありました。もともとは別のところに住んでいたのですが、私の状態を見かねた学生時代の友人が声をかけてくれて、この街に引っ越すことにしたのが始まりです。当時の私は、心がボロボロになっていて、悲しみの感情しかありませんでした。

そんな状態で迎えた物件探しの日。不動産屋の方と友人だけがいるのかと思ったら、私とは面識のない赤ちゃん連れの夫婦も来ていて「家探してるの?一緒に見るよ」と言うんです。1人暮らしの物件を、なぜか大人5人でゾロゾロと見て回りました(笑)それがすごく新鮮で、外から来た人でも歓迎してくれている感じがしたんです。

実際に住み始めてからはよく街の飲み屋さんに行き、そこで出会った人たちとしゃべって、泣いたり、笑ったりして。誰かが私を支えてくれているというより、街が私を支えてくれている感覚でした。東京でもこんな暮らしがあるんだなって。いつからか、住んでいる家の最寄り駅に帰ってくると、すごくほっとするようにもなりました。その体験があるから、次は私が地域に対してできることをしていきたいと思っているんです。

外部連携よりも、先生にゆとりを

—— 地域コーディネーターとして活動する一方で、小学校の講師としての顔もお持ちですよね。地域と学校の両方を見る中で、変化したことはありますか?

今はどの学校でも地域や外部の人と連携していく流れが強くなっていると思います。既にいろんな人が出入りしている状態で、私自身は「こんな人を呼びませんか?」と自分からさらに連携を進めようと思う気持ちは薄れてきています。

先生たちがこれ以上忙しくなってしまうことには抵抗があって。もちろん先生から「こんなことをしたい」「こんな人を呼びたい」という声を聞いたら、一緒に何かしていきたいとは思っています。けれど、必要以上に外部の人との連携を推し進めることよりも、一人ひとりの先生がゆとりを持って子どもたちと向き合える時間の方が大切なんじゃないかなと思っています。

そして、子どもたちに向けて何かをしたいのであれば、場所は必ずしも学校でなくてもいいと思うようになりました。それぞれの専門性を背景に、「学校では〇〇教育が必要だ」という意見を耳にすることがあります。それはどれも大切だと思うけれど、外から言われた意見によって先生がどんどん苦しくなっている現実もあると思っています。

なので、「〇〇教育が必要だ」と思うのであれば、学校じゃなくても、街中で自分たちでやったっていいと思うんです。今の街は、いい意味で学校にすべてを求めていない感じがしています。気になることがあったら、自分の家でご飯会を開いたり、学校以外の居場所をつくったり。そういう街が少しずつ広がっていったらいいなと思っています。

学校にはいろんな体験が凝縮されている

—— 地域での活動を広げつつも、学校に関わり続けるのはなぜなのでしょうか?

やっぱり、学校は好きな場所なんです。地域で活動する中で、学校の存在意義についてより考えるようになりました。

コーヒーを飲みに行くこともイベントに参加することも、地域でやっていることはどれも行っても行かなくてもどちらでもいい。その方の立場や状況にもよりますが、地域での活動は心地いいところだけを取っていられる側面もあるのではないかなと思います。

でも、学校は必ずしもそうではありません。行かないという選択肢もあるけれど、多くの子どもは毎日行く場所だと認識しています。そして、誰がいて何をするかもほとんど決まっている。それ自体は悪いことではないと思っています。一定の制限がある場所で過ごすことは、苦しさを感じることがあるかもしれないけれど、だからこそ学べることがある。

実際に社会で生きる中では、人間関係が上手くいかなかったり、挫折を味わったりすることがありますよね。それでもまた頑張ったり、少しでもよくしようともがいたりする。そんないろんな体験が、学校には凝縮されている気がするんです。もちろんそれが価値だと言えるのは、子どもの権利が保障された上でのことです。

だから、子どもにとっても先生にとっても、学校がいい場所であってほしいというのはずっと願っていることです。地域で活動することで、その思いはより強くなったかもしれません。

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建石尚子

1988年生まれ。中高一貫校で5年間の教員生活を経て、株式会社LITALICOに入社。発達支援に携わった後、2021年1月に独立。現在は教育に関わる人や場を中心に取材や執筆をしている。「メガホン」の運営団体であるNPO法人School Voice Project 理事でもある。

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