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「イエナプラン教育」を公立小学校で。子ども、保護者、先生に、丁寧に伝えながら広げていく

  • 建石尚子

ドイツの教育学者ペーター・ペーターゼンによって創始され、オランダで広がったイエナプラン教育。一人ひとりを尊重しながら、自律と共生を学ぶことを大切する教育方針は日本の教育者の間でも注目されるようになりました。

今回お話を伺ったのは、静岡県の川根本町立三ツ星小学校でイエナプラン教育の実践を続ける濵大輔さん。同校は、3つの小学校を再編して2023年4月にスタートした新しい学校です。

筆者はある1日の濵さんの授業の様子を見学させてもらい、今回のインタビューのお時間をいただきました。濵さんの具体的な実践や大切にしている考えを紹介します。

子どもの関心を出発点にしながら、ともに学ぶ

—— イエナプラン教育とは、どのような実践なのでしょうか。

ともに生きることを学ぶ。一言でいうと、それがイエナプランの特徴だと思っています。もう一つあげるとしたら、生きた学びであること。教員から学習内容を提示するような学び方ではなくて、子どもたちの関心を中心に対話を重ねながら学んでいくんです。

僕の授業ではすべてをそうしているわけではないので、先に目標を提示したりドリル教材を使ったりすることもあります。理想的には、子どもの内側から湧いてきた問いを出発点にした活動をできる限り多くしたいなとは思っています。

—— 具体的には、過去にどんな授業がありましたか?

昨年度担当していたクラスでは、点字器(点字を打つ機械)についてワールドオリエンテーションをしました。

※ワールドオリエンテーション:子どもたちの経験世界にある本物の事象に対する子どもたち自身の内発的な問いに基づいて探究を行い、科学研究のプロセスを仲間とともに学ぶ協働活動(出典:https://onl.bz/Xq9ah2J

ある子が、「全盲のおじいちゃんに手紙を書いた」と言って、そのときに使った点字器を学校に持ってきたことがありました。みんなで点字器を観察する過程で、「どうやって使うんだろう?」「点字ってどう読むんだろう?」などの質問が出てくるわけです。それを僕がマインドマップにまとめて、どんな役割分担で探究していくかをみんなで考えました。

そのときに子どもたちに伝えたのは、一次情報と二次情報の違いです。その上で、みんなにはできるだけ一次情報に触れてほしいという僕の思いを伝えました。すると出てきたのは「おじいちゃんに直接話を聞くのが1番いい」という意見。では、どうやったらおじいちゃんに会えるか?それをみんなで考える。実際に会って話を聞くことができたら、各自が担当する問いについてさらに探究していき、最後はそれぞれが学んだことを発表しました。

—— まさに子どもの関心が出発点になっていますね。ただ、学習指導要領で定められている学習内容にも合わせる必要があると思います。その点の難しさはありませんか?

どの学年でどんな内容を扱う必要があるかは、あらかじめ把握しておくようにしています。なので、学習指導要領の内容を意識して、僕から「ここについて疑問に思うんだけど、調べてみない?」と投げかけることもあります。誰からも手が挙がらないときは、僕が調べて最後に発表することもある。そうすると、結果的には学習指導要領で定められている内容にもみんなが触れることができます。

みんなで協働しながら学ぶ時間の他にも、「週計画」と呼んでいる自律学習の時間が1日2〜3時間あります。そこでは、国語や算数などの枠の中で、それぞれが何をどう学ぶかを決めることができます。

一人ひとりを尊重し、安心して学べる環境を整える

—— 教室での机の配置は、多くの学級で見るような講義形式ではありませんでしたね。常にこのかたちで授業を進めているのでしょうか?

そうですね。今は、教室の真ん中に椅子を並べてサークルを作っていて、その周りにいくつかのグループを作るように机を並べています。一人で集中したいときのために、教室の隅にはカーテンで覆った個人ブースもあります。

最初からこのかたちだと不安になる子もいると思ったので、そこは慎重に変えていきました。サークルになる場所は残しつつ、初めは机を黒板の方に向けておいて、漢字や計算の練習をするときは僕が黒板の前に立って説明しました。子どもたちには、既に経験してきた「授業はこういうもの」というイメージがあると思うので。そこから少しずつサークルになって集まる体験を重ねていき、机も前向きではなくグループになるような配置に変えていきました。

—— 授業の中では、自律学習や共同学習に取り組む際、そのねらいを子どもたちに丁寧に説明しているように見えました。

子どもも1人の人間だと思っているので、そういう関わり方をしているんだと思います。同じ人間としてできる限り相手を尊重しようと思うと、理由や背景は説明しますよね。

ただ、最初の頃は「必要性に迫られたから説明するようになった」というのが正直な答えです(笑)今までとは違うやり方をすると、子どもたちから「なぜ?」という問いが自然に生まれてきます。

例えば、「漢字ドリルを先に進めてもいいよ」と伝えると、中には「なんで先に進めてもいいの?」と思う子もいる。特に、先生が言ったことをきちんと守っていたからこそ評価されてきたような子たちは戸惑うわけです。なので、背景にある考え方を伝えるようになりました。特に小学校高学年になると、そうしないと取り組んでもらえなかったんです。

時間をかけて、丁寧に。「学級通信」で伝え続ける

—— 新しい実践に対して、同僚の先生たちの間ではさまざまな意見があると思います。先生たちとの関わりで大切にしていることはありますか?

今の僕は「川根本町型授業づくり研究員」として委嘱されています。さらに校長からは、「イエナプランナビゲーター」という校務分掌をもらっている。そういう役職がすでにあるので、僕の実践に対して真っ向から否定する人はいません。

けれど、それに対して僕が「自由にさせてもらいますよ」みたいな感じで一人で突っ走っていくと、周りの先生はたまったもんじゃないですよね。そもそもこれは僕だけの実践ではなくて、先生たち全員の学びにつなげて学校全体で取り組んでいく必要がある。それをしていくために、まずは僕から自己開示していこうと思い、年度当初に思いを綴った通信を先生たちにお渡ししました。

もちろんそれを渡したからと言って、簡単に理解してもらえるわけではないと思っています。僕の考えを伝えたり実践を見てもらったり、対話を重ねたりする時間が必要なんです。それは保護者に対しても同じです。なので、週1,2回のペースで発行している学級通信は、保護者と先生たちにお渡しするようにしています。

自分の“原体験”を大切に。理想は手放さず、続けてほしい

—— 最後に、濵さんのような取り組みをしたい先生に向けてメッセージをいただけますか。

何かを変えたいと思っている先生には、きっと“原体験”があると思うんです。その体験があるから、「自分はこういうクラスや授業をつくりたい」と思うんじゃないかな。

僕の場合は、特別支援学校に勤務していたときに出会ったある生徒の変化がきっかけでした。「自分の中から出てきた関心は、こんなにも人を変えるんだ」という驚きがあった。特別な場所で学ぶこともいいことではあると思ったけれど、僕としては、一人ひとりの関心やペースに合わせた教育を、日本中の子どもたちが体験できるようになるべきだと思ったんです。どうしたらそれができるんだろう?と考え続けて、今の実践がある。

多くの人は、自分の理想を持ちながらも「教科書の内容をやらないといけないから」「隣りのクラスに合わせないといけないから」とか、いろんな壁があると思うんです。それは無視できないけれど、諦めてしまったらそれ以上のものにはなりません。なので、それぞれの理想は手放さずに、小さいところからでも自分が大切にしたい実践を続けてほしいですね。

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建石尚子

1988年生まれ。中高一貫校で5年間の教員生活を経て、株式会社LITALICOに入社。発達支援に携わった後、2021年1月に独立。現在は教育に関わる人や場を中心に取材や執筆をしている。「メガホン」の運営団体であるNPO法人School Voice Project 理事でもある。

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