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“問い”で先生を解放し、学校をもっと自由に。今日からできる小さなアクションとは?

  • メガホン編集部

同僚の先生たちに“問い”を投げかけることで、「自分でアクションを起こし、学校を変えていく人」を生み出してきた大野大輔さん。

2023年3月までの10年間、都内の公立小学校で教員を務めたのち、現在は株式会社 先生の幸せ研究所のコンサルタントとして全国の学校の組織開発に携わっています。そんな大野さんに、学校で新たな一歩を踏み出そうとしている人の“伴走者”として、大切にしていることを伺いました。

「隣りの先生は幸せですか?」師匠の一言にハッとした

—— 大野さんは同僚の先生方に“問い”を投げかけることで、改革をする人を増やしてこられたそうですね。学校を変えていくアプローチはさまざまだと思いますが、“問い”に注目したのはなぜだったのでしょうか?

きっかけは僕の師匠からの言葉でした。当時の僕は教員5年目で、順調にいけば良いポジションにもつけるようなタイミングでした。学校の中では自分自身の正義感から、職員会議で「それって子どものためになってるんですか?」といきなり反対意見をいうようなタイプ。今思い返すと、まさに天狗状態だったなと思います。

ある飲み会の席で、僕は自分の考えや価値観を師匠に話していました。それを「うんうん」と聞いてくれて、最後に「ところで、大ちゃん(大野さんの通称)の隣りの先生は幸せですか?」と聞かれたんです。そのとき、何も言葉を発することができないくらいの衝撃を受けました。

職場の人たち一人ひとりの顔を思い浮かべてみると、幸せではないことは明らかだったんです。「僕は、5年間一体何をやってきたんだろう…」そう思って、本気で反省しました。子どもはもちろん、まずは先生たちが幸せになるような働きかけをしないといけない。考えが180度変わったと同時に、“問い”のすごさを感じた出来事でした。

—— 師匠からの一言が、大野さんに大きな影響を与えたのですね。

そうですね。それから僕が尊敬する方々の振る舞いやさまざまな組織を見る中で、自分の考えを押し付けず、相手のありのままを受け止めることの大切さを感じました。

僕と話すことをきっかけに、相手が自分の能力をそれまで以上に発揮できるようになってほしい。そう思って、「“問い”で相手を解放する人になろう」と決めたんです。

1人の先生が起こしたアクションが、学校全体に広がっていった

—— 勤務されていた学校では、具体的にどのようなことをしたのでしょうか。

勉強会を開いたり、お菓子を食べながら話す場をつくったりしました。同僚の先生と一緒にランチを食べに行くこともありましたね。

ちょっとした対話の場をつくることで、普段は見せないような一面を見せてくれることもありました。実はDIYが好きだったり、植物の名前はなんでも知っていたり。その方の好きなことを聞くと、可能性がたくさん見えてくるんです。

以前、裁縫が好きな先生に家庭科の授業に一緒に入ってもらったら、子どもたちへのアドバイスが的確で本当に助かりました。一方で、僕は体を動かすことが好きなので、体育があまり得意ではない先生の授業に入ってサポートをしたりすることもありました。お互いの好きなことや得意なことを知っていると、仕事を補い合うこともできるんですよね。

—— “問い”を大切にするようになってから、特に印象に残っている出来事はありますか?

6年生の担任をしていた頃、同じ学年を受け持っている先生と2人でラーメンを食べているとき、「もし何も制約がないとしたら、学校でどんなことをしたいですか?」と聞いてみました。すると、「本当は、コーヒーを飲みながらみんなで教材研究をしたいんだよ」と言うんです。他にもたくさんの願望を話してくれました。

さらに「小さい一歩を踏み出すために、なにか一緒にできることはありますか?」と聞くと、「6年生を学年担任制にしたい」と話してくれて、それに向けて動いてみることになったんです。

※学年担任制:学級担任を固定せず、学年を受け持つ複数の教員がチームとなって、各学級の業務をローテーションで担当する学級運営の方法

後日、その先生が「どうやったら無理なく学年担任制が導入できるか」を資料にまとめて持ってきてくれました。元々資料づくりは天才的に上手い方で、その資料を見て思わず「最高です!」と言ってしまいました(笑)

その後、関係する教職員の方に事前にお伝えした上で職員会議で提案すると、みんなからも賛同してもらえました。すごいのは、6年生だけではなく他の学年にも学年担任制が広がっていったことです。

最初に「学年担任制にしたい」と言った先生がアクションを起こしたことで、全体に広がっていった。それを実感したとき、嬉しさと感動で体が震えましたね。

大切なのは、ワクワクで小さな一歩を踏み出す人の伴走者になること

—— “問い”の力でそこまでの変化が起こるとは驚きです。なにか意識していることがあるのでしょうか?

相手と話すときに意識しているのは、「好き→願望→今(現在地)→小さい一歩」の順番で聞き、その後に相手に「伴走」することです。僕はこれの頭文字を取って、「スキガイチバン(スキ:好き、ガ:願望、イ:今、チ:小さな一歩、バン:伴走)」と覚えています。

具体的な例をあげると、①「好きなことはなんですか?」、②「何も制約がないとしたら、どんなことをしたいですか?」、③「今はどんな感じですか?」、④「やりたいことを実現するための小さな一歩はなんですか?」という感じです。

もちろんその場の流れや相手によって、問い方は変えています。大切なのは、小さな一歩を聞いた後に、相手に伴走することです。組織の中でなにか新しいことをしようと思うときって、やっぱり孤独だと思うんです。それがハードルの一つになっている。だから僕は、一緒に作戦会議をしたり、ちょっとした成功を喜び合ったりします。実は、子どもたちとの関わりでも同じことを意識していました。

—— “問い”を投げかけるだけではなく、その後の関わりも大切なのですね。とは言え、自分とは価値観が合わないと感じる相手もいると思います。どのようなことを心掛けていたのでしょうか?

相手と合わない部分があることって、実は当たり前なんですよね。だからこそ、その違いを楽しむようにしています。そして、自分の考えと合うか合わないかに関係なく、誰もが尊い存在だと思っています。すべての生きている人は、既に100点満点なんです。

鎧を脱いで、みんな「我がまま」になっていい

—— 大野さんが感じる、“問い”の魅力とはなんでしょうか。

カリスマ的な改革者1人が組織を大きく変えていくこともできますが、その人がいなくなることで、また元に戻ってしまったという事例を耳にしたこともあります。

“問い”の最大の魅力は、みんなが当事者になって自分でアクションを起こしていくところです。誰も「大野さんのおかげ」とは言わないんですよね。もちろん僕自身もたくさんのアクションを起こします。その上で、いろんな人が当事者となって自分の“好き”をベースに動いていける組織は強いですよ。

さらに、いきなり大きなワークショップや研修を導入しようとするとハードルは高いと思いますが、「問い続けること」は日常の中で小さく始められます。“問い”によって信頼関係ができていると、大きなアクションを起こしたときに賛同が得やすいとも思っています。このように、畑が耕された状態でワークショップや対話の場を設定することで大きな効果が出ると考えています。

—— 最後に、少しでも組織を変えていきたいと思っている教職員の方にメッセージをいただけますか。

僕が好きな言葉の一つは、「わがまま」です。わがままって、ネガティブなワードとして使われることが多いのですが、漢字で書くと「我(われ)がまま」ですよね。本当は誰もがこの世に生まれたときは我がままだと思います。それに、いつの時代も誰かの我がままで社会が進化してきました。

けれど、段々と鎧(よろい)を着るようになり、「こうしなきゃいけない」「こうするべき」と考えるようになるんです。僕も、以前はそうでした。その鎧を脱げたとき、毎日が本当に楽しくなったんです。だから、それをもっと多くの方に知ってほしいと思っています。もっと、みんな我がままになっていい。多くの人が、まずは自分を解放し、その後たくさんの人を“問い”で解放していけるようになると嬉しいです。

先生たちがそんな風になっていけば、きっと日本はもっと自由な社会になるんじゃないかなと本気で思っています。今は外から学校に関わる立場として、いろんな組織が幸せになるプロセスを一緒に歩みたいと思っています。

—— 大野さん、ありがとうございました!

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メガホンの記事は、教職員の方からの声をもとに制作しています。
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メガホン編集部

NPO法人School Voice Project のメンバーが、プロやアマチュアのライターの方の力を借りながら、学校をもっとよくするためのさまざまな情報をお届けしていきます。 目指しているのは、「教職員が共感でき、元気になれるメディア」「学校の外の人が学校を応援したくなるメディア」です。

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