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自分を知り、他者を知る。「哲学対話」で授業に新しい視点を

  • 建石尚子

この日、大阪の守口にある古民家風の「来迎カレーの店 うペぽ」に集まってきたのは、小学生から大学生までの6人。神戸大学附属中等教育学校の国語教員である中川雅道さんは、休日を利用して毎月子ども哲学のイベントを開催しています。(イベント開催予定はこちらよりご覧いただけます)

子ども哲学とは、p4c(philosophy for children)とも言われ、日常で感じる問いを出し合い、お互いの意見を聞き合いながら考えを深めていく活動です。

対話をするときに使うのは、毛糸でできたコミュニティボール。発言者はボールを持ち、ボールを持っていない人は話を聞きます。安心して話せる場をつくるためには、欠かせない道具です。

中川さんは、大学時代から哲学対話についての研究を重ね、現在は学校の授業でも哲学対話を取り入れています。

人数が多くても、哲学対話は取り入れられる

ーー 授業の中では、哲学対話をどのように取り入れていますか?

現代文の授業だと、4〜6回に1回くらいは哲学対話をしています。本当は、毎回対話の時間にしたいくらいなのですが(笑)私が面白いなと思った文章を持ってきて、生徒たちに読んでもらった上で、問いを出し合って対話することが多いですね。道徳や総合的な探究の時間はもちろん、他の教科でも哲学対話を取り入れることが出来ます。

ーー 学校の授業だと、40人くらいで対話をすることもありますよね。人数が多いことによる、大変さはないのでしょうか?

実際にやってみると、人数が多いことによる大変さは意外とないんですよね。恐らく、先生としては発言していない生徒がいることが気になるんだと思います。

もちろん人数が少ない方が一人ひとりが発言できる時間は長くなりますが、たくさんしゃべっているからと言って、じっくり考えているとは限りません。あまり発言していなくても、もしかしたら深く思考しているかもしれない。なので、「人数が多いと大変で、少ないとやりやすいのか?」と聞かれると、微妙なところだと思います。

先生自身が、哲学対話の場を楽しんで

ーー 授業で哲学対話をするときは、どのようなことを意識していますか?

私の場合は、生徒と一緒に自分が楽しんでしまっているかもしれません(笑)生徒たちから出る問いに、純粋に興味があるんです。問いやそれぞれの意見に集中して耳を傾けています。

ーー 哲学対話の場づくりが成功したと感じるのは、どんなときですか?

終わった後に、生徒から「面白かった」と言ってもらえたときかなと思います。休み時間に生徒同士で哲学的な対話をしているのを見かけたりすると嬉しいですね。話の内容が気になってしまって、私も対話に加わってしまいます(笑)

そもそも哲学対話の場づくりに成功や失敗はないのかもしれないなとも思っています。自分では失敗したと思っても、生徒は楽しんでいたかもしれないですし。

一方で、いわゆる通常の授業は成功や失敗を判断できるように設計してあるような気がします。先生が枠組みをつくって、生徒がこう変化したらいい、みたいな。それがなくなるのが、哲学対話なんだと思います。

ーー 哲学対話の場づくりを続けてきて、ご自身で変化したなと感じることはありますか?

以前、大学院時代の後輩から「どんどん中川さんになっていますね」と言われました(笑)

ーー それは、どういう意味なのでしょう?

人って、言いたいことがあっても、相手を見て発言や行動を躊躇してしまうことってあるじゃないですか。それが段々となくなっていきました。「あ、これ言いたいな」とか「今こう考えてるからこうしたいな」と思ったら、自然に行動に移せるようになりました。「これを言ったら攻撃されるかもしれない」とか、そういう怖さが少しずつ消えていったんです。

対話の場でも「上手く進行しないといけない」とか「先生だからこう言わないと」とか、最初は少し思ってたのですが、今はないですね。思ってもないことは言いません。言ったとしても、誰の心も動かないんですよ。

大切なのは、上手く進めようとするよりも、自分が面白がることなんですよね。先生自身が「面白い!」と思えていると、結果として対話の場が上手く進んでいくような感じがします。

「正解」を問い直せることが、哲学対話の価値

ーー 授業の中で哲学対話を取り入れたいときに、最初にできることは何でしょうか?

学校以外の場でも、近くでやってる人がいないか探してみてください。哲学カフェは、割といろんなところで開催されています。

いきなり授業でやるのは難しさがあると思うので、まずはそこに行って対話の場に参加してみるといいと思います。相談を受けてくれる人も結構いると思いますよ。

ーー 中川さんにとって、学校で哲学対話の場をつくる価値とはなんでしょうか。

それぞれが「学校はこういう場所だ」と思っている“内面化された学校”を変化させていくことだと思っています。「いい行いをしないといけない」「いい成績を取らないといけない」などは、内面化された学校の一つ一つだと思います。

哲学対話には、「正解」がないんです。正解がない中で、相手が考えていることを聞いて、自分が考えていることを話す。先生や子ども、保護者が、学校に対して「これが正しい」と思っていることを考え直す場であるのが、哲学対話の価値なんじゃないかなと思います。

ーー 中川さん、ありがとうございました。

相手との違いを知ることに、意味がある

最後に、在学中に中川さんの授業を受けられた、神戸大学附属中等教育学校卒業生のお2人からのコメントをご紹介します。哲学対話の授業を受けたことで、ご自身にどのような影響があったのかを聞きました。

中村 帝仁 さん

哲学対話って、正解を求める場ではないんですよね。相手の意見を聞いて、いろんなものの見方を知る場だと思います。最初の頃は、正解ばかりを考えていましたが、対話を重ねるたびに「合理的であることに意味はあるのか?」「正しさに意味はあるのか?」と考えるようになりました。

井口 寛太朗 さん

哲学対話をする中で、人の意見を聞くことの大切さを感じるようになりました。例えば、同級生のことはよく知っていると思っていたけれど、意外と知らないことだらけだったり。自分では常識だと思っていたことが、相手にとってはそうではないこともあると思います。それぞれが、いろんな価値観や考え方を持っているんだなと思うようになりました。

編集後記

今回は、インタビューだけではなく、筆者も哲学対話の場に参加させてもらいました。年齢や立場に関係なく、正解や不正解、優劣も存在しない中で発言できる場は、こんなにも安心感で満たされているものかと、その場にいて感じました。空間を共有し、他者とともに学べる場であるのが、学校の価値の一つだと思っています。哲学対話は、学校という場所で、知識を得ること以外の学びを体感できる取り組みではないでしょうか。

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建石尚子

1988年生まれ。中高一貫校で5年間の教員生活を経て、株式会社LITALICOに入社。発達支援に携わった後、2021年1月に独立。現在は教育に関わる人や場を中心に取材や執筆をしている。「メガホン」の運営団体であるNPO法人School Voice Project 理事でもある。

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