【解説記事】子どもの権利条約 4つの原則から意見表明権までわかりやすく解説
2023年4月に施行されるこども基本法、2022年12月に改訂された生徒指導提要でも子どもの権利条約の理念が取り入れられています。近年、ようやく注目が高まっている子どもの権利条約について、この記事では一緒に考えていきたいと思います。
子どもの権利条約と日本社会
国際社会の流れ
1945年、第二次世界大戦が終結しました。
大戦中は、特定の人種の迫害/大量虐殺など/人権侵害/人権抑圧が横行し、たくさんの命が奪われました。このような経験を経て、人権問題は国際社会全体にかかわる問題であり、人権の保障が世界平和の基礎になるとの思いから、1948年12月10日、国連第3回総会(パリ)において民とすべての国とが達成すべき共通の基準」として、「世界人権宣言」が採択されました。(世界人権宣言 法務省HPより)
すべての人、宗教、肌の色、言語、住んでいる地域、出自に関わらず、平等であるということが明記され、子どもを含むすべての人の人権が尊重されることが、国際社会の中での共通理解になったのです。
この流れを受けて、日本でも、1951年に児童憲章が出され、そこには「児童は人として尊ばれる/児童は良い環境の中で育てられる、児童は社会の一員として重んじられる」と明記されることとなりました。
しかし、児童憲章は、子どもは「尊ばれる受け身の存在」とされ、保護の対象ではあるものの権利の主体ではありませんでした。
日本国内の法整備
1989年11月に「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」が国連で採択。日本も1994年に批准しました。条約を批准するということは、その条約の精神に則って子どもという存在をとらえ、かつ、国内法との矛盾がないか確認し、必要がある時には整備をするということです。しかし、国内法の必要性が訴えられ、国連の勧告ありましたが、整備されてきませんでした。
ようやく変化があったのは2016年。児童福祉法の一部が改正され、第一条に「すべての児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され保護されること~」第二条で「児童の年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない」となりました。それ以前の児童福祉法では、子どもは福祉の「対象」とされていたのが、2016年の改正では、福祉を受ける「権利の主体」へ、子どもの位置づけが大きく変わりました。
(本来は、1994年に子どもの権利条約に批准した時点で、「子どもは権利の主体」という子ども観を、国内法へ反映させなければならなかったのですが、児童福祉法に盛り込まれるまでに18年もかかりました。)
それ以降、子どもは権利の主体であるという理念の元、そのことに関連する法律(児童福祉法の他の部分や、子どもの貧困対策の推進に関する法律、児童虐待防止法、など)の改正や、こども基本法制定などが進んできています。
子どもの権利条約の内容
子どもの権利条約は、世界中の子どもの権利に関するNGOが参加して作成されました。世界中のすべての国や地域の子どもたち、また、その個々の属性(人種、言語、文化、宗教、障害、社会的養護などがどうであっても、その子たちの権利を守るために大切にすることが書かれています。
条約は、以下の【4つの原則】と【4つの柱】から構成されています。
4つの原則
- 生きる権利と成長する権利(第6条)
すべての子どもが生きる権利と殺されない権利を持っています。
国は、子どもが死なずに生きて、きちんと育っているかどうかを見張らなければなりません。子どもが成長するために、できる限りのことをする義務があります。
- 差別されない権利(第2条)
すべての子どもにあてはめられます。誰も差別されることはありません。いろいろな 違い(国、性別、人種、言語、宗教、意見など)をもっていても、それらの違いを大切にしてもらう権利があります。
国は、すべての子どもの権利を同じように大切にしていかなければなりません。
- 子どもの最善の利益(第3条)
子どもに関係のあることを決めるときは、子どもにとってよいことかどうかを考えなければなりません。
親が子どもを幸せにすることができない場合、国は子どもの幸せを守り保障しなければなりません。
国は、子どもの幸せを引き受けるすべての施設(学校、警察など)が、きちんと子どもを助け、守っているかどうかを見張らなければいけません。
- 自由に意見をいう権利(第12条)
子どもに関係のあることを決めるときはいつでも、自分の意見を持つ年齢になった子どもには、自分の考えを言う権利があります。おとなは子どもの意見を気にかけなければいけません。
国は、子どもに関係のある重要なことが決められるときはいつでも、子どもの意見が気にかけられているか見張らなければなりません。
引用『子どもの権利宣言』(遠藤ゆかり(訳),2018年,シェーヌ出版社)より
4つの柱
- 生きる権利
人間が生きていく上で奪われてはいけないもの。おなかの中に宿った命が無事にこの世に生まれてきて、その命が継続するために必要なことです。
育つために必要な栄養ある食事や水が十分にあるか、子育てに必要な社会保障制度が機能しているか、病気やけがをしたときに治療を受けることができるか、そもそも健康に生まれてくることを助けてもらえる、ということです。
- 育つ権利
すべての子どもの命と、育つことが尊重され、その成長が保障されること。
人格を尊重され、可能性を広げる教育を受けることができること、持って生まれた能力を伸ばしながら成長できること、自分の名前や国籍を持ち、家族と一緒に生活できること。家族と一緒に暮らせない時には、国がそれを支える仕組みを作ること。
そして、子どもは疲れたら、ちゃんと休むことができ、遊びたい時には遊ぶことができる権利もあり、これは子どもの権利特有の物です。きちんとした理由もなく遊ぶことを我慢させられなくてもいいのです。
- 守られる権利
子どもに不適切な関わりをするおとなや、子どもにとって害になる行為をするおとな、そのような行為自体からも守られるということ。(暴力やネグレクト、性的搾取、経済的搾取、有害な労働から保護される)
また、法律上の理由がないのに逮捕されることの禁止、裁判を開く権利も、守られる権利としてあります。
少数民族・先住民・障害のある子どもがその自己性を保ちながら尊重されるということも大切です。
- 参加する権利
子どもは自分に関係あることについて、自由に意見をいうことができて、おとなは子どもが意見を出しやすいように十分に支え、出てきた意見を子どもの発達に応じて十分考慮するということ。今はどんな状況か、あなたにはどんな権利があるか、何ができるのかということを、その年齢に考慮した言い方で、その子がわかる言葉を用いながら、情報を提供し、そのことについて、自分の想いがおとなに聴かれる権利があるということです。
まずは、命があり、子どもに関することを決めるときは、子ども自身の多様な意見が聴かれ、いつも子どもにとって一番いいことを考える。そして、それは、どんな環境にあっても差別されることなくこの条約が適応される、ということなのです。
ひとつずつの権利は、どれが大切というわけではなく、それぞれがお互いに影響し合って“権利”を支え合っています。
また、権利というと義務との関係性を問われることがありますが、子どもの権利は“子ども期における基本的人権”なので、契約上の権利と義務の関係にはなりません。人であれば当然に保障されるものであり、人権が停止されるのは、他の人の人権を侵害する場合のみです。そして、子どもの権利条約が守られる仕組みをつくる義務は国にあり、子どもたちを守るおとなの役割と、それを支えるための国の義務を明確にしています。それらによって、子どもたちの安心安全な生活が続いていくのです。
具体的に考えてみよう!子どもの権利
子どもの権利をまもるってどういうこと?
“権利をまもる”と言われるととても堅苦しく感じてしまいがちですが、おとなも子どもも「今いる場所が安心安全かどうか」「あなたらしくいることができているか?」ということです。ある場所にいて「その場所からいなくなりたい(帰りたい/出ていきたい)とき」は、何かの権利がまもられていない、と考えることができます。
子どもの権利をまもるということは、子ども期における基本的人権の尊重であると言い換えることもできます。子どもは、おとなになるための成長過程の(未熟な)存在ではなく“子ども期”という固有の時期を過ごしている一人のヒトであるということを尊重するということ。子どもの安全安心が保たれるために、おとなが関与して安全を守り、それと同時に子どもが自分の人生を主体的に生きることができるようにサポートするということなのです。
この【まもられる】という視点と【自分で決めていく権利の行使主体】という視点の2つあることが、子どもの権利条約の特徴です。
例えば、生きる権利で保障されている【医療を受ける権利】で考えてみましょう。子どもが病気やけがをしたときには、おとなが関与して手当をします。それは、家で看病する場合もあるし、病院で診てもらうこともあります。子どもが病気やけがをしたときに適切な治療をすることで、子どもは守られます。ただ、できるだけ子どもが安心した状態で治療に向き合うことも大切です。「どこで治療を受ける?」「どんな治療を受けたい?」「どんなお医者さんに診てもらう?」「粉薬と錠剤はどちらが飲みやすい?」ということを、子ども自身がおとなのサポートを受けながら決定していくことで、自分自身に何が起こっているのかがわかり、治療に意欲を持つこともできます。
このように自分に関わることについて、適切な情報を受けながら自分自身で決定していくことを、「権利の行使主体」と言います。
もちろん病気やけがの状態によっては、子どもの想いがそのまま反映されないこともありますが、その決定に子どもが参画するプロセスが子どもの最善の利益につながっていくのです。
参加する権利と子どもの最善の利益
権利を行使するためには【意見表明権】と【子どもの最善の利益】の関係の解釈がとても大切です。
条約第12条意見表明権には「自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について、自由に自己の意見を表明する権利を確保する。その場合において児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるもの」と書かれています。
しかし、英文を見てみると
States Parties shall assure to the child who is capable of forming his or her own views the right to express those views freely in all matters affecting the child, the views of the child being given due weight in accordance with the age and maturity of the child.
とあり、OpinionではなくViewsと書かれています。直訳すると“彼ら彼女らの視点”と書かれているのです。
意見というと、自分の中に確固たる気持ちがあり、そのことを自分の意思で言語的に表出することというOpinionという意味でとらえられますが、ここでは、必ずしも言語的な表出を伴わない、態度やしぐさなども意見の現れとしてとらえます。
国連の子どもの権利委員会のガイドラインには“乳幼児は、話し言葉または書き言葉という通常の手段で意思疎通ができるようになるはるか以前に、様々な方法で選択を行ない、かつ自分の気持ち、考えおよび望みを伝達しているのである”とあります。
赤ちゃんは、生まれたときから「泣く」という手段を用いて訴え、それを見たおとなが「お腹すいたのかな」「おむつが濡れているのかな?」「眠たいのかな?」「抱っこしてほしいのかな?」と子どもの思いを推察するおとな側の態度も、子どもの意見としているということです。泣いている子どもを見て、おとな側が何を求めているのか「赤ちゃんの視点」で考えて、子どもの最善の利益へ近づいていくのです。
音声で言葉を発せられるようになった時には、その言葉がさまざまな関係性から忖度されていないか、十分に意見を言える環境にあったのか、ということも考えなくてはいけません。そして、言語的な表出がなかったとしても、態度、しぐさ、などもすべて意見になるということなのです。
子どもの思い(Views)を形にするためのプロセスに伴走(参加する権利の保障)した結果、出来上がったものが【子どもにとって一番いいこと】であり、おとなだけで決めた最善の利益は、子どもにとっての最善の利益にはなりません。
子どもの権利条約によって、おとなも守られる
生徒指導提要に子どもの権利が明記されました。
子どもを様々な不利益から守るということは、容易に考えやすいのですが、参加する権利の保障をどのようにするか、頭を悩ませる教職員の方も多いのではないでしょうか。意見とは何か?どのように意見を聴くか?意見表明権の正しい理解のもと、教育活動に子どもが参画していくことが大切です。
「子どもの意見を聴いたら、それを全てかなえないといけないの?」という疑問が湧くかもしれません。ですが、それは大きな間違いで「決定のプロセスに参画する」ということが大切なのです。その子どもたちから聞いた意見(態度やしぐさ、後ろ側に広がっている背景も含めて)をもとに、【どうやったら子どもの安心安全につながるか】ということを一緒に考えていくことが、求められているのだと思います。
子どもの権利は、もちろん子どものための権利なのですが、同時に、子どもを養育するおとなも支えるという視点も含まれています。子どもの権利条約第18条では、子どもを養育する第一番の責任は“親”にあるとしていますが、その親が責任を果たすために、“国は親を助ける義務がある”と明記しています。
親が安心して子育てができるように、子どもの成長発達を助ける仕組みを作ること、親が働いている場合には、働いている親を助けるための責任は国にあると言っています。
そういう国からのバックアップのもと、親は安心して子どもを養育し、子どもの権利をまもることができるのです。
“親が安心して子育てができるように”ということは、子どもが通う施設の安全な場づくりという意味もあり、多くの子どもが通う幼稚園、保育所、学校等が安心安全な場になるための責任も国にあるということです。人権は、そこに集う人すべてに平等にあるので、それらの施設で働く職員の人権も保障されなければなりません。
子どもの思い(Views)を受け取り、子どもの最善の利益を一緒に考えていくためには、それを受け取るおとな集団そのもの(学校であれば教職員)が、支え合い助け合える関係性にあるかどうかが大切になります。
子どもの権利条約は、一人一人のおとなが子どもを支えるという視点もありますが、子どもに関わる全てのおとなが安心して子どもの育ちを支えるために、国や地方自治体は、子どもの権利が十分に保障され、その責務をおとなが果たせるように、法律や具体的なサービス基盤を整える責任があるという点が、最も大切なことなのです。
School Voice Projectとして
学校という、多くの子どもが通う場所。その場所に関わるおとなを支えるためにNPO法人 School Voice Project は活動しています。一見すると、教職員を支えるための組織?と捉えられてしましますが、教職員の環境を改善していくための行動は、子どもの権利を支え、子どもの安心・安全をつくるることにつながっていくのです。
だから、私たちはこれからも、学校に関わる大人が元気になれる活動を進めていきます。
絵本で学ぶ、子どもの権利
この文章を書くにあたって、長瀬正子さん(佛教大学社会福祉学科准教授)にご協力いただきました。
長瀬さんが書かれた絵本『きかせてあなたのきもち 子どもの権利ってしってる?』は、子ども自身の日々変化する気持ちを手がかりに、子どもの権利を分かりやすく学べる構成になっています。
子どもの権利を子どもたちと一緒に考えるとき、教室で子どもと一緒に絵本を読んでみませんか?
参考文献
『きかせてあなたのきもち 子どもの権利ってしってる?』 (長瀬正子・momo,2021年,ひだまり舎)
『子どもアドボケイト養成講座 子どもの声を聴き権利を守るために』(堀正嗣,2020年,明石書店)
『ビジュアル版 子どもの権利宣言』(遠藤ゆかり(訳),2018年,シェーヌ出版社)
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小谷綾子 (うさみあやこ)