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ソファ、仮装、謎の石…?「遊び」と「居心地」を大切にしたインクルーシブな教室環境づくりとは

  • 建石尚子

学校の教室にあるのは机と椅子。できる限り、余計なものは置かない。

そんな環境とは対照的な教室をつくるのは、大阪府の公立小学校に勤める豊田哲雄さん。現在は理科の専科教員として、理科室にソファやクッションを置き、子どもたちがリラックスして学べる環境をつくっています。中には仮装をして授業を受ける子どももいるのだとか。

豊田さんが考える居心地の良い空間と、教室にさまざまなものを置くねらいを伺いました。

教室の中で「子どもの居心地」を追求した

ーー 教室環境を変えようと思ったきっかけを教えてください。

10年ほど前に、元小学校教員で現在は軽井沢風越学園校長をされている岩瀬直樹さんの著書『クラスづくりの極意―ぼくら、先生なしでも大丈夫だよ』を読んだことがきっかけでした。「教室リフォームプロジェクト」(※1)といって、教室のレイアウトを子どもたちが話し合いながら決めていく実践が紹介されています。そこに畳が置いてある写真が載っていて、とりあえずそれを真似してみたのが教室環境を変える一番最初の実践だったと思います。

その数年後、イエナプラン教育(※2)の実践に影響されて、ベンチを教室内に置き始めました。同じ頃、学校の倉庫にソファがあることに気づいて、それも教室に置いてみたりと、長い年月をかけていろんなものを置くことが当たり前になっていきました。

( 以前に担任していた学級の様子。置いていたソファには、休み時間になると必ず子どもたちが集まって、楽しそうに会話していた。)
( 畳スペース。休み時間になるとここでよくカードゲームが行われていた。授業中にはこの場所で学習している子どももいた。)
( 廊下にもベンチを置いて、座れるようにしていた。)

※1 「教室リフォームプロジェクト」とは、子どもたちが教室を自分たちでデザインして、自分たちの居場所に変えていくプロジェクトです。このプロジェクトを通して、学級に対するオーナーシップを育てることを目指します。詳しくは、『クラスがワクワク楽しくなる! 子どもとつくる教室リフォーム』をご覧下さい。

※2 イエナプラン教育とは、ドイツで始まりオランダで広がった、一人ひとりを尊重しながら自律と共生を学ぶオープンモデルの教育です。(日本イエナプラン教育協会HPより引用)

ーー 教室環境を変えていったときの子どもたちは、どんな様子でしたか?

休み時間になると、子どもたちはみんな畳スペースに集まってカードゲームをしたり、ソファやベンチに座って話をしたりしていました。教室の中に集まれるような場所があれば、自然とそこに集まり、遊びが始まります。子どもたちは、狭いスペースに集まって遊ぶことが好きなんです。休み時間に十分遊べているから、授業にも集中できていたと感じます。

授業に関して言うと、僕の授業では元々、立ち歩いたり机を動かしたりできる時間を多く取っていたのですが、畳やソファ、ベンチがあることで、さらに「学ぶ場所」に関して、多様性が生まれました。

国語の時間で時々やっていた「読書家の時間」(※3)では、畳スペースの狭いところに子どもたちが集まって本を読む姿が微笑ましかったです。中にはベンチに寝転んで本を読んでいる子もいました。そうやって、思い思いの場所や姿勢で過ごす姿が素敵だなと思っていました。

※3 「読書家の時間」とは、子どもが「読書家」になりきって、たくさんの本を読む中で、選書の仕方や優れた読み方、本を介した対話などを、体験的に学んでいくワークショップ形式の実践です。詳しくは『改訂版 読書家の時間 自立した読み手を育てる教え方・学び方【実践編】』をご覧下さい。

ーー 子どもたちが自由に選択できる環境をつくる上で、気をつけていることはありますか?

2年前にタブレットが導入されたとき、僕のクラスではホーム画面の壁紙を自由に設定していいことにしていました。ある日、子どものタブレットを整理していたら、性的な要素の強いアニメの画像を壁紙に設定している子がいることに気づいたんです。それを見たときは「ちょっとまずいなぁ…」と思いましたが、その子が「この画像が可愛い」と思う気持ちは尊重したいなと思いました。

悩んだ末、翌朝子どもたちに「みんな好きな壁紙にしていいと思うけど、他の人がどう感じるかも考えてみてね」という話をしました。すると、該当の壁紙を設定していた子はすぐに気づいて、子どもたち同士で「私のはどう見えるかな?」とお互いの感性を聞き合うようなやり取りが始まりました。みんなの意見を聞くことで、その子は納得して他の壁紙に変えていましたね。

自由にできることを多くしたら、やはり既存のルールから外れるような出来事はたくさん起こるものです。そのときに教員自身が「これは良くないかな」と思うことがあったら、それはちゃんと子どもたちに伝えた方がいい。

教室は公共の場なので、お互いの感覚や感性を伝え合うことで、みんなで一定の基準を決めていくことが大切だと思います。そのやり取りも、子どもたちにとっての学びなんです。さらにそれが、インクルーシブな環境づくりにもつながっていくと思っています。

理科室では仮装OK。置いてあるのは「謎の石」

ーー 今は、理科の専科を担当されていますよね。理科室ではどのような環境をつくっているのでしょうか?

学級担任をしていた頃のように、理科室にはソファとクッションを置いています。

( 現在、理科室に置いているソファ。)

他にも、ハロウィンやクリスマスの季節になると、関連する衣装を置いて、仮装をしながら授業を受けられるようにしています。理科では実験をすることもあるので、安全面には十分に配慮しています。

( 理科室に置いている衣装。これを着て授業を受けることもできる。)

理科室の前には模型の骸骨が置いてあって、子どもたちは自由に衣装を着せたりしています。「骨田骨雄(ほねだほねお)」という名前もついているんですよ(笑)季節やイベントによって、衣装が変わります。

( 理科室名物の骨田骨雄先生。夜になったら歩き回るという設定になっている。)

あとは、「呪いの石」と「呪いを解く鐘」、「幸せの石」、「願いが叶う石」など、うけ狙いのグッズを置いたりしています。休み時間に来た子どもが、目をつぶって「願いが叶う石」をぎゅっと握りしめている様子を見かけることもありますね。他の授業で子どもたちが作った作品などを置いて、遊べるようにすることもあります。

(のろいの石など。ここに置いているものも、少しずつ変化していく。)

ーー なぜそのようなものを置いているのでしょうか?

衣装や石は、最初は「面白そうだから」という理由で置いてみたのですが(笑)、実はこれがインクルーシブな環境をつくっているんじゃないかと思うようになりました。

( 仮装をして授業を受けている子どもたちの様子。)

日本の学校ではあまり多様性が受け入れられていないなとずっと感じていて。みんな同じであることが普通だと、少し違う子が目立ってしまう。そうすると、いじめも起こりやすくなると思っています。合理的配慮が必要な子に対しても、「ずるい」という声が聞こえることもあります。

「インクルーシブ教育」と聞くと、障害のある子どもが支援を受けて、みんなと同じようにできるようになることを目指すものかのような誤解もあると思います。本来のインクルーシブの意味はそうではなくて、みんながバラバラの状態で尊重されることです。

だから、みんなが同じになりがちな教室の中で、ソファや仮装道具を置いたりして、わざと多様性を持たせるようにしているんです。ソファで勉強している子がいたり、仮装して授業を受けている子がいる中で、防音のためのイヤーマフを着けている子がいたとしても目立たないですよね。そういう意味で、いろんな学び方を保障することにつながると思っています。

( 理科室には遊び道具もたくさん置いている。)

居場所があることで、子どもたちは安心して学べる

ーー 理科室の中に、子どもたちの居場所があるように感じますね。

そうですね。実はそれも意図して環境づくりをしています。

ソファの設置に関して言うと、学校や教室の中に座る場所が1つだけしかないのは、子どもたちの権利を大切にしていないことの表れなんじゃないかなと思っています。休みたいときに休めることは、人間の基本的な権利ですよね。学校の中では、まるで硬い椅子に座り続ける訓練をしているように感じることもあります。リラックスできる環境をつくることは、子どもの権利を保障するという側面でも大切なことだと思います。

また、学校では学力や体力を向上させることが重視されますが、そればかりが強調されることによってしんどい思いをする子どももいます。例えば、「おしゃれをすること」や「笑いをとること」など、違う価値観のベクトルがあれば、それによって救われる子どもがいるんじゃないかと思っています。仮装道具や石を置くことには、あえて教室の中のベクトルがいろいろな方向に向くようにする意図もあったりします。

( ぬいぐるみなども複数置いている。中にはお気に入りのぬいぐるみをテーブルの上に置いて授業を受ける子もいる。)

ーー 最後に、学びの環境づくりについて、豊田さんが目指していることを教えてください。

僕はあくまで理科の授業をする人なので、そこは崩してはいけないと思っています。質の高い授業をすることで、子どもたちの学びを保障する。それと同時に、学力を高めることや体力をつけることばかりを重視するのではなく、「余白」をつくっていくことも大切にしたいです。

一見すると授業には関係ないように見えることでもいいから、子どもたちが自分なりに考えたりやってみたりできる「余白」を、教室の中に残しておく。そうやって、一人ひとりにとっての“自分の居場所”を学校や教室の中につくり、子どもたちが安心して学びに向かえる環境をつくっていきたいですね。

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建石尚子

1988年生まれ。中高一貫校で5年間の教員生活を経て、株式会社LITALICOに入社。発達支援に携わった後、2021年1月に独立。現在は教育に関わる人や場を中心に取材や執筆をしている。「メガホン」の運営団体であるNPO法人School Voice Project 理事でもある。

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