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働き方改革は「先生の負担が減る」だけじゃない。学校コンサルタントが考える、組織開発の可能性

  • 建石尚子

「先生たちが変われば、子どもたちの学びが変わる」

そう話すのは、対話を中心とした組織開発の専門家として、全国の学校でコンサルティングを行う澤田真由美さん。

約10年間小学校教員を務めた経験があり、子どもとの関わり方や働き方に悩んできたと言います。自身の経験から、先生がゆとりを持って働き、子どもたちの学びの質を高めていける学校を増やしたいと考え、2015年に学校専門コンサルタントとして独立。

現在、株式会社先生の幸せ研究所の代表を務める澤田さんに、改革を進めていくときのポイントと、教職員一人ひとりが改革のためにできることを伺いました。

教職員が思っている「変えられない」を「変えられるかも」に変換する

ーー学校コンサルティングでは、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

2022年4月から関わらせてもらっている埼玉大学教育学部附属小学校(以下、埼玉大附属小)では、組織開発をしていくために月1回ほど学校を訪問しています。それまでにICTツールの導入などでハード面は整ってきており、学校で働く教職員の意識など、ソフト面を変えていくことの必要性を感じておられました。

「教職員が自分たちで課題を解決していけるような組織にしていきたい」というニーズから、お声をかけていただきました。今は、それぞれの先生たちから発案があった12個のプロジェクトを並行して進めているところです。

ーー12個ものプロジェクトが発案されたのですね。教職員からそこまで多くの意見やアイデアが出るのは、一体なぜなのでしょうか。

どの学校も教職員のうち5%くらいの方は「学校を改革していきたい」という強い思いがあり、実現に向けてすでに行動しています。逆に、「変えずに現状を守りたい」という方も5%くらい。両者ともに、自分の信念を持って行動していることは共通しています。

1番多いのは、「変えられるなら変えたいけど、自分やこの組織には無理」と思っている方です。コンサルタントとして学校に関わらせてもらうときの最初のワークショップでは、「変えられるはずがない」と思っている方に「変えられるかもしれない」と思ってもらうこと、「変えずに現状を守りたい」と思っている方に「変えた方がいい場合もあるかも。案外いいかも」と思ってもらうことが最も重要なことだと思っています。

ーー研修やワークショップでは、具体的にどのようなことをするのでしょうか?

教員だけではなく誰しもが「こうするべき」という思い込みに無自覚のうちに縛られていることが多いので、それが当たり前ではないのだと感じられるような話をしたり、思い込みの枠を外せるようなちょっとしたワークをやったりします。

その後、埼玉大附属小のときは、3、4人ずつのグループに分かれて「これから変えていきたいこと」について話し合ってもらいました。私はいろんなテーブルを周りながら、出てきた意見を教職員全体に紹介したり、「最初は小さいことからでいいですよ」と声をかけたりします。盛り上げ役のような感じですね。

誰もが「本当はこうだったらいいのに」「ちょっとやりにくいな」と思っていることが必ず1つはあるものなんです。まずは勇気を出して、変えたいと思っていることを声にしてもらうことからだと思っています。

価値観を共有し、人として関わりながらプロジェクトを進める

ーー現在進めているプロジェクトについて、もう少し詳しく教えてください。

「学校の中でジェンダー平等の視点を広げたい」という思いを持った先生が発案したプロジェクトでは、男女別の名簿を見直したり、先生の性別によって受け持つ学年に偏りがある現状を見直したりする動きを進めています。

また、「それぞれの先生が自律分散的に動いていくティール組織のような場にしたい」という思いを持った先生からの発案で、週3回、子どもたちが下校した後の20分間はそれぞれが創造的なことに使える「クリエイティブタイム」を設定しています。

ルールとして決まっているのは会議を入れないことくらいで、その時間をどう使うかは個人に委ねられています。丸つけや事務作業をする以上に、それぞれが新たなアイデアを生み出したり、自分のやりたいことを深堀りしたり、教職員同士で対話をしたりするような時間にしていけるといいなと思っています。

ーー意見を出したり実際にプロジェクトを進めていくには、教職員同士の関係性も大切だと思います。信頼関係をつくっていくために、工夫していることはありますか?

埼玉大附属小では、教職員がお互いに自己開示をするワークショップをやりました。校内でプロジェクトリーダーをされていた先生が、この頃にはすっかり「自走」を地で行くようになっていたので、進行は私ではなくその先生にお任せしました。

ワークショップでは、3、4人のグループに分かれて、それぞれが大切にしている価値観や生い立ち、プライベートのことなど自由に話していきます。

幼少期の経験を話す中で「ひとり親家庭で育った」という方の話を聞いて、「実はうちもそうだよ」という会話が生まれたり。それまでは「先生」という役割を持った人として関わっていたのが、さまざまな背景を持った「人」としての関わりに変化していくんです。

校長先生のこれまでのストーリーを聞いて、「1本の映画を見ているような気持ちになった」と仰る方もいました。中には自己開示をすることに対して抵抗感があった方もおられましたが、「今までの研修の中で1番有意義だった」という声も上がりました。

最後にそれぞれの価値観を紙に書いてもらうと、いろんな言葉が集まりました。それぞれの価値観って、とても多様なんです。だからこそ、組織開発を進めていく中では目に見える成果だけを追い求めるのではなくて、先生たちと一緒に「どうありたいか」を考えながら目指す方向性を決めていきたいと思っています。

大切なのは、自分から手を挙げてもらうこと

変わっていく学校には、どのような要素があるのでしょうか?

まずは本音で話し合う時間を少し無理してでも確保することが重要です。そうでないと、変わるきっかけをつくれないので、現状維持のままになりがちです。先頭を切って改革を進めていくような校長がいれば変わりますが、結局その校長が異動したら元に戻ってしまいます。

話し合いの時間が楽しかったり、実際に変えていける実感を持った人が1人、2人と増えていけば、さらにその動きが周りに波及していきます。そうすると、最初は非公式の時間でやっていた話し合いが、学年会議や教科会議のような公式の時間に位置付けられていくわけです。

過去には先生たちへのヒアリングを元に、必要だと思ったアイデアを私から提案したことがありますが、それでは上手くいきませんでした。先生自身が心から「やりたい」と思うことが何かに目を向け、自ら「やろう」と声を上げることが、学校を変えていくためには必要なことだと思っています。先生たちのアイデアから生まれたプロジェクトを日常の業務と並行して進めていく中で、学校改革を進めていく“当事者”を増やしていくのです。

ーー学校を変えたいと思っている教職員一人ひとりができることは、何かあるでしょうか?

管理職ではなかったり経験年数が浅かったりすると、「できることはない」と思いがちですが、決してそうではありません。おすすめの方法は、「問いで耕す」ことです。

つまり、いろんな方に「問い」を投げかけるのです。例えば、「校内研修で何か困っていることはないですか?」と質問して、相手が「こんなことに困っていて…」と話してくれたら、そこから対話を続けていきます。あくまで「どう思いますか?」と聞くスタンスで、「こうしましょう」とは言いません。

実際に「問いで耕す」ことで、学校改革への情熱を持った教職員を増やしていき、研修やワークショップなどを一切せずに学校のあらゆる決まりごとを変えていった先生がいます。校内研究の講師を授業者が選べるようにしたり、通知表の作成週は毎日4時間授業にしたり、通知表の印鑑を廃止したり、各家庭でランドセルかリュックかを選べるようにしたり。すごいですよね。

先生だけではなく、校長や管理職の立場の方にもおすすめです。まずは「みんなどう思う?」と聞いていくところから始めてみてください。

先生たちが自由になれば、子どもの学びは変化する

ーー澤田さんがコンサルタントとして学校の教職員の方と関わるときに、気をつけていることはありますか?

改革を進めるときに欠かせないのが、「組織には見えやすい部分と見えにくい部分の両方がある」と理解することです。見えやすい部分とは、制度や時間割、環境設定などです。見えにくい部分は、教職員それぞれの思い込みや組織風土、個人のモチベーションなどです。他の学校が改革に成功した事例があると、同じ取り組みをそのまま導入しがちですが、それでは上手くいきません。組織ごとに目に見えにくい部分の課題が違うからです。

私たちコンサルタントは、組織ごとの課題をメタ認知して、プロジェクトの実行を進めるペースメーカーとして関わったり、壁打ち相手になったりすることもあります。組織にいる立場では言いにくいことも、外部の人間であれば「やってみましょう」と言える部分もあります。そんな風に、組織開発を進めていくための程よいプレッシャーを与えることが役割だと思っています。

ーー最後に、澤田さんが思い描いている学校教育のあり方を教えてください。

学校教育では、探究的な学びやプロジェクト学習が重要だと言われていますが、学校内で先生がクリエイティビティを発揮しにくい状況になっているという相談がとても多いです。それと同時に、これまで聞いてきた先生たちの話からは、「もっと自由にやりたい」と思っている方が多いことにも気づきました。

先生たちが「本当にやりたい」と思っていることを学校の中で実現できれば、子どもたちの学びは変化していくと思っています。実際に、教職員間で体験した話し合いやプロジェクトの進め方を、教室内で子どもたちを対象にやってみた先生もいました。すると、子どもたちからはどんどんアイデアが出てきたそうです。

先生たちには、学校の中で自由と可能性を感じてほしいと思っています。私は、それを実現するための手段として、学校コンサルティングや講演活動を行っています。まずは先生たち同士が何でも言える関係でわくわくと学校をつくっていくこと。その変化を、子どもたちの学びの変革につなげていきたいと思っています。

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メガホンの記事は、教職員の方からの声をもとに制作しています。
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建石尚子

1988年生まれ。中高一貫校で5年間の教員生活を経て、株式会社LITALICOに入社。発達支援に携わった後、2021年1月に独立。現在は教育に関わる人や場を中心に取材や執筆をしている。「メガホン」の運営団体であるNPO法人School Voice Project 理事でもある。

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