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自分を知る。わかってもらう。気持ちや願いを表す「子どもニーズカード」で、共感的コミュニケーションを。

  • 建石尚子

子どもの感情や願いにフォーカスを当てたコミュニケーションを手助けをしてくれる「子どもニーズカード」。

子どもが感じていることや考えていることを知りたい。
学校生活の中で困っている子どもの気持ちに寄り添えるようになりたい。

もしあなたがそう願っているのなら、このカードは、その願いを叶える後押しをしてくれるかもしれません。

放課後等デイサービスの児童指導員であり、「子どもニーズカード」の製作者でもある能美たかこさんと、スクールソーシャルワーカーをしながら教職員や子どもたちへの対話の場づくりをしている宝本いつみさんに、「子どもニーズカード」の魅力と学校現場での活用方法を伺いました。

カードを使って、感情を知る。ニーズを探る。

ーー「子どもニーズカード」は、学校現場を含めさまざまな場面で活用されはじめていますね。そもそも「子どもニーズカード」とは、どのようなカードなのでしょうか。

能美:子どもニーズカードは、NVC(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)の概念を元にして作成したカードで、さまざまな感情やニーズが文字やイラストで表現されています。子どもに自分の内面と近いカードを選んでもらうことで、感情とニーズに焦点を当てたコミュニケーションを取ることができます。

※NVC(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)とは、1970年代に、アメリカの臨床心理学者マーシャル・B・ローゼンバーグ博士によって体系化され、提唱された、自分の内と外に平和をつくるプロセス。

宝本:NVCのことは、「自分も相手も大切にするコミュニケーション」と言われることがあります。お互いが必要としていることや大切にしていることをわかり合った上で、どう関わり合うかを探っていくんです。

人って、本当は「仲間に入れて欲しい」「わかってほしい」と心の奥底で思っていても、真逆の行動をとってしまったりすることがありますよね。そうなってしまうのは、感情とその奥にあるニーズの概念を学んでこなかったからなんです。

目に見える言動に惑わされずに、自分自身や相手が大切にしたいことにフォーカスしてコミュニケーションを取っていく。NVCは、そんなシンプルかつ奥深いコミュニケーションの概念です。

ーー「ニーズ」と「感情」には、どのような違いがありますか。

能美:「感情」は、何らかの出来事があったときに抱く気持ちのことです。その奥にあるのが「ニーズ」です。ニーズが叶うと、嬉しい、楽しいなどのポジティブな感情が生まれ、ニーズが叶わないと、悲しい、イライラする、などのネガティブな感情が生まれます。感情は、ニーズが叶ったかどうかを表す信号のようなものです。

子どもニーズカードを使うときは、まず表に出ている感情から信号をキャッチします。そして、その信号の奥にはどんなニーズがあるのかを探っていきます。

ピンクの縁取りは「感情」のカード
ブルーの縁取りは「ニーズ」のカード

感情とニーズを見える化して起こった、子どもの変化

ーー学校現場で「子どもニーズカード」を活用する中で、印象的だったことはありますか?

宝本:ある先生が共有してくれた話です。小学校高学年の児童が、いつも英語の時間になると暴言を吐いたり、呼びかけに無反応になる状態が続いていたそうです。そこで、子どもニーズカードを使うことになりました。英語の時間にどんな気持ちになるのかを聞いたところ、その子が選んだのは「こんがらがってる、ごちゃごちゃ、よくわからない」「不安、緊張してる、心配している」「イライラしている」の3枚のカードでした。

その感情がどこから出てくるのかを聞くと、「英語でしゃべるから意味がわからなくてこんがらがる。そして、ドキドキしてどうしたら良いかわからなくなる。だから、イライラしてどうでもよくなる」と話してくれました。大人から見ると、その子の行動にはイライラしている状態だけが表れていましたが、その奥にはこれだけの感情があったんです。

その後、何をしてほしいかを聞くと、「助けてもらう、サポートしてもらう」のカードを選びました。最終的には、「英語の指示の後には日本語で必ず説明を入れる。授業中は、先生がその子のところに何度か行く。課題は一緒に取り組む」ということを本人と一緒に共有しました。

それからは、ほとんど不適切な行動がなくなったそうです。先生との助け合いの関係が、さらに子ども同士での助け合いにも広がったと聞きました。でも、最終的なこの手立ては、それまでにもやっていたそうなんです。違いは何かと言ったら、その子が自分で自分の感情を知り、さらに自分の気持ちをわかってもらえた体験があったところではないかなと思います。

子どもニーズカードは、学校現場での活用も進みつつあります(写真はイメージです)

ーー能美さんは、「子どもニーズカード」を活用する中で印象的だったことはありますか?

能美:あるお子さんと一緒に料理をしているときに、「学校の休み時間、何してるん?」と話を振ったんです。すると、「ぼーっとしています」と返ってきました。そこで、子どもニーズカードを持ってきて、どの感情が近いか聞いてみたんです。

私はてっきり「だるい」「疲れた」などの感情を選ぶかと思っていたら、その子が選んだのは喜びにあふれた状態を表すカードだったんです。驚きましたね。私の推測がくつがえされる瞬間でした。自分の感情をあまり外に出さない子どもに対して、「きっとこう思っている」と大人が勝手に決めつけてしまうことがあるかもしれない、と自覚した出来事でした。

もう一つ、普段あまり学校に行かないお子さんとの出来事です。ちょっとした会話の中で、子どもニーズカードを見せながら、「学校に行くと、どんな気持ちになるの?」と聞いてみたんです。すると、ごちゃごちゃしている状態を表すカードを選びました。やりとりを重ねる中で、「なりたい自分はどんな感じなの?」と聞くと、平和でリラックスしている状態を表すカードを選んだんです。その後、「どうしたら、そうなれる?」と聞くと、尊重されたり助けてもらう状態を表す4枚のカードを選びました。

子どもニーズカードを使い始めた頃は、なかなか自分の感情やニーズを選ぶことが難しいお子さんだったのですが、少ない枚数から選ぶことを繰り返す中で、適切に自分の状態を表すカードを選べるようになったんです。

最終的に、その子自身が「これがあれば、安心して学校にいられると思う」と思える状態まで一緒に確認することができました。一連の流れをその子のお母さんに見せたら、写真を撮り、「今度、学校の先生にこれを伝えてみます」ととても喜ばれていました。

子どもに寄り添い、一緒に歩んでいくためのツール

最後に、子どもと関わる教職員の方へメッセージをお願いします。

能美:子どもへの敬意を忘れずに、興味や関心を持ちながら寄り添うように関わっていくことが大切なのかなと思っています。「行動の奥には何があるんだろう?」という気持ちで、子どもと一緒に探ってもらいたいです。

そして、学校の先生たちも、感情やニーズの概念を使って話をしてみるのも良いのではないかなと思います。ネガティブな感情を抑え込んで頑張っている先生たちは多いのかなと思うので、そういう場合は、まずはニーズから自分が大切にしたいことを探っていって、その次に自分の感情に気づいていくのも良いかもしれません。

宝本:子どもニーズカードを紹介するときには、「子どもをコントロールするための手段として使わないでほしい」とお伝えするようにしています。大切なのは、大人が困っている状況を解決することではなく、子ども自身が自分の感情やニーズを知り、それによって人と繋がる感覚を持ってもらうことです。

自分が置かれている状況や求めていることを聞いてもらうだけでも、子どもたちの人生が救われることはあるんじゃないかなと思います。大人が子どもの気持ちを受け止めて、寄り添い、一緒に歩んでいこうとする。そんな関係性をつくるためのツールの1つとして、使ってもらえるといいなと思っています。

能美さん、宝本さん、ありがとうございました!

子どもニーズカードを使ってみたいと思ったら…

子どもニーズカードには、購入できる有料版と、ダウンロードして無料版があります。それぞれ、以下のリンクからアクセスしていただけます。また、使用にあたっては、「基本的な使い方」の資料をお読みください。

▼子どもニーズカードの購入はこちらから
https://kodomoneeds.base.shop

▼無料版子どもニーズカードのダウンロードはこちらから
https://tinyurl.com/26x4va3g

▼基本的な使い方(資料)はこちらから
https://tinyurl.com/26nqtukx

「使い方をもっと詳しく知りたい」、「カードを活かした実践を深めたい」という方には、子どもニーズカードを活用している様々な立場の方が参加している以下のコミュニティがあります。ぜひ、参加してみてはいかがでしょうか?

▼Facebookグループ「子どもニーズカードを使ってみよう!」はこちらhttps://www.facebook.com/groups/139249607781121

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建石尚子

1988年生まれ。中高一貫校で5年間の教員生活を経て、株式会社LITALICOに入社。発達支援に携わった後、2021年1月に独立。現在は教育に関わる人や場を中心に取材や執筆をしている。「メガホン」の運営団体であるNPO法人School Voice Project 理事でもある。

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