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「あしたは何をみせようかな?」毎朝ワクワクの “はっぴょう”から学校は始まる

  • 建石尚子

学校での日課の1つである「朝の会」。挨拶や健康観察、教員の話以外に、子どもたちが前に出て話をする「はっぴょう」の時間を設けている教員がいます。
東京都世田谷区にある私立和光小学校で小学校2年生の担任をしている山下淳一郎さんに、「はっぴょう」の具体的な内容やねらい、子どもたちの様子を伺いました。

みんなに伝えたいことを自由に話す時間

-- 「はっぴょう」とは、どのような取り組みなのでしょうか?

「はっぴょう」の時間は、主に子どもたちがみんなに見せたいものを見せて話したりする時間です。いわゆる1分間スピーチのように原稿があるわけではないし、何か立派なことを言わなきゃいけない訳でもありません。「道ばたできれいな石を拾った」「きのう歯が抜けた」など、そんな“ちょっとしたこと”でいいんです。「歌を作りました」「紙芝居を作りました」「けん玉の技ができるようになったので見せます」など、一人ひとりの興味関心が知れる楽しい時間です。

子どもたちの机の並びは、いつも教室の中央を囲むようにコの字型にしていて、発表する子はみんなが見える位置に出てきて話します。発表するのは義務ではなく、エントリー制。発表したい子は、朝登校してきたら自分の名前が書いてある磁石を決まった場所に貼っておくんです。毎日10人くらい、多いときは20人くらいの名前が貼ってあります。あまりにも多いと全員が発表できず、もう終わりだと伝えると、みんなからブーブー文句を言われますね(笑)時間がないときは、「明日、最初に発表してもらうから。ごめんね」と伝えるようにしています。

参加の仕方はいろいろ。話す子、聞く子、反応する子。だんだん広がる興味の輪。

ーー それくらい、子どもたちにとっては楽しい時間なんですね。一方で、中には発表しない子もいるのではないでしょうか。そういう子に対しては、どのような関わりをしていますか?

「はっぴょう」は義務ではないので「やらなくてはいけない」ものではないんです。毎日のように出てくる子もいれば、聞くだけの子もいるし、他の子の話にすごく反応する子もいる。参加の仕方はいろいろなんです。でも、発表しない子の親御さんは「うちの子やりたがらないんです」と、やきもきしてしまう。でも「それでもいいんですよ」と伝えています。他の子の話を聞くうちに、自分もやってみようかな、と思う気持ちがだんだんふくらんでくるかもしれない。子どもたちには、一人ひとりのリズムがあるんです。

ーー 自分が発表したいタイミングを尊重してもらえると、子どもたちは安心できそうですね。どのような目的で、「はっぴょう」の時間を設けているのでしょうか?

プレゼン能力が高まるとか、そういうことを目的にしているのではありません。大切なのは、「あしたなにをみせようかな」とワクワクしながら学校に来てもらえること。そして、学校の外と中がつながっていくこと。みんなに受け止めてもらえたという安心感が醸成されていくことです。「この子、こんなことに興味があるんだ」「この子は今、これにはまってるんだ」と他者を知ることで、やりとりの輪が広がっていく。お互いの興味関心が重なり合って、みんなの学びにつながっていくこともあります。

1人の発表が、みんなの学びにつながる

ーー これまで取り組んできた中で、印象的だったことはありますか?

ある子がオタマジャクシを捕まえてきて、それを持ってきて発表したんです。1匹だけペットボトルに入れて。その子は、「学校でオタマジャクシを飼いたい」と言うわけです。そこから話し合いが始まりました。「学校で生き物を飼っていいのか」「飼うのはかわいそう」「でも連れてきちゃったんだから、最後まで面倒を見るべき」「これからオタマジャクシがどうなるのか知りたい」など、いろんな意見が飛び交いました。

中には、「どうしても生き物は飼いたくない」という子も。たった一人の意見であっても丁寧に話し合いを重ね、最終的には、「その子にはオタマジャクシを近づけないようにする」というルールをつくり、飼うことに決まりました。多数決で決めるのではなく、みんなが納得する解決策を考えていくことが大切なんです。

その後は、調べたことを書いてもらったり、オタマジャクシを授業の中で扱ったりもしました。1人の子の発表をきっかけに、調べたり、話し合ったり、ルールを決めたりと、さまざまな体験に繋がったと思います。

本校を舞台にしたドキュメンタリー映画『あこがれの空の下』でも登場したのですが、難聴の子が補聴器の発表をしたことがあります。聞いていた子どもたちは耳に興味を持ったようだったので、そこから、からだの学習に繋げていきました。例えば、その子のお母さんや過去に通っていた聾話学校の先生に来てもらって、耳の機能や補聴器について話してもらいました。聾話学校の先生には補聴器を貸してもらって、みんなで補聴器を通した音の聞こえ方を体験したりも。補聴器をつけるとちょっとした雑音もそのままの音量で聞こえるので、みんなは自分の耳との違いを知るわけです。そこから、(補聴器をつけている)その子と関わるときに気をつけたらいいことをみんなで話し合いました。

1人の子どもが思っていることを話す。それをきっかけに、みんなの知識を広げることや、他者の立場を想像して何ができるかを考えることにも繋がるんです。「はっぴょう」の時間をつくることで、個人の思いをみんなのものにしていく感覚があります。

ただ、内容によっては、みんなから興味を持たれないこともあります。例えば、「この前、遊園地に行きました。楽しかったです」みたいな話だと、聞いている方の食いつきはあまり良くありません。「へー。よかったね」くらいの反応です。みんなからのリアクションを受けて、子どもたちは「自分が何を話したいか?」だけではなく、だんだん「みんなはこれに興味を持ってくれるかな?」「みんなはこれを見せたら喜んでくれるかな?」と、発表の中身を考えるようになるんです。

教員も一緒におもしろがれると、「はっぴょう」の幅は広がる

ーー 最後に、学級で「はっぴょう」の取り組みにチャレンジしてみたい方へメッセージをお願いします。

朝の10分でもいいです。子どもたちが自由に発表できる時間をつくってみてください。できれば毎日。子どもたちが学校の中で「こうあらねばならない」に縛られていると、自由にと言っても何をしたらいいのか、何なら許されるのか、と動き出せないかもしれません。でも必ず突破口をつくる子が出てきます。そのときに大事なのは、教員がおもしろがれるかどうかです。たまには先生自身もエントリーしたらいいと思いますよ。きっと子どもたちのイメージも膨らみます。「はっぴょう」で子どもたち同士がつながり、学びがつながっていく。とっても楽しい時間を、子どもとともに体感してほしいですね。

ーー山下さん、ありがとうございました!

※本記事内の写真は和光小学校を取り上げたドキュメンタリー映画「あこがれの空の下」より、許可を得て借用しています。

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メガホンの記事は、教職員の方からの声をもとに制作しています。
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建石尚子

1988年生まれ。中高一貫校で5年間の教員生活を経て、株式会社LITALICOに入社。発達支援に携わった後、2021年1月に独立。現在は教育に関わる人や場を中心に取材や執筆をしている。「メガホン」の運営団体であるNPO法人School Voice Project 理事でもある。

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