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「ルールメイキング・プロジェクト」を経て生まれた標準服。全校生徒で理想の学校像を語り合う「おづこれ会議」と、そこから紡ぎ出されたビジョン「学校のコンパス」。さらには、生徒の願いをカリキュラム化した探究学習「共創プロジェクト」まで――。

大阪府泉大津市立小津中学校では、生徒が学校の経営方針を語り、自ら学びを設計する。そんな、学校のこれまでの「当たり前」が覆るような光景が広がっています。

しかし、これほどまでに生徒へハンドルを委ねることは、大人たちにとって勇気の要る決断だったはずです。

後編では、「担任制の廃止」や「授業時間の短縮」を決断するに至った背景や、校長や教頭、教員たちの思いを伺います。

「荒れた学校」はどう再生したのか

この変革の中心にいるのが、小津中学校の首席・研究開発学校研究主任を務める大達雄(おおだち ゆう)さん。

泉大津市の小学校教員を10年、市教育委員会で3年を過ごしたのち、6年前にこの学校へ赴任してきました。

「実は、赴任したころの小津中学校は、いわゆる『荒れた状態』でした」

大達さんは、当時をそう振り返ります。かつては、警察が介入するトラブルも少なくなく、地域の方に迷惑をかけることも多かったと言います。校舎の壁や天井に穴が空けられたり、年度末には修繕のための予算が足りなくなるほどだったといいます。

当時の教員たちは、校内で身の危険を感じることも少なくありませんでした。生徒を信じるどころか、大人が身を守ることに必死だった当時。職員会議での発言も一部の教員に偏り、新たな取り組みを進めようとしても、挑戦することへの不安感が強かったそうです。

そんな状態にあった小津中学校が、再生に向けて動き出す一つのきっかけが、2021(令和3)年度からスタートした「小中一貫教育校」としての歩みでした。

※ 小中一貫教育校:小学校と中学校が連携し、子どもたちの9年間を見通した一貫性のある教育を行う学校の仕組みのこと。小津中学校では、校区内の2つの小学校(上條小学校・条東小学校)と連携し、校舎は別々のままで一貫教育を行う「施設分離型」の小中一貫教育校としてスタートした。

中学校の教員だけで解決策を模索するのではなく、小学校の教員と同じ目線で語り合い、9年間の学びを共にデザインする「小中一貫カリキュラム」の作成が始まったのです。

この対話の中で、小中学校の教員たちが共有した一つの思いがありました。それが、「みんなが安心 みんなで創る あなたが輝く学校」というスローガン。「このスローガンを掲げたことで、『みんなで学校づくりを楽しもう』と大きく舵を切ることができました」と大達さんは語ります。

生徒指導が困難な状況であっても管理で押さえつけるのではなく、「生徒が問い続けるサイクル」を大切にする。小学校卒業までの学びのロードマップを小中でつないでいく「『9年間の学び』重点カリキュラム」が策定されました。

このスローガンづくりや、カリキュラム作成・運用に関わる対話のプロセスそのものが、教員たちの意識を少しずつ変えていくこととなります。小中学校の教員が一丸となって授業づくりを交流し、地域とも連携を深めていく。一貫した方向性が決まったことが、対話を重視した探究的な授業への転換を進めるうえでの土台となりました。

計画ばかりの「PPP」から脱却し「AAR」へ

土台が整い始めたことで、小津中学校の改革は進んでいきます。それを支えたのは、大達さんが大切にしている「まずはやってみる」という考え方でした。

「日本の学校は、PDCAサイクルと言いながら、ずっと計画ばかり練っている『PPP(プラン・プラン・プラン)』の状態に陥りがちです。分厚い企画書を作って、反対されそうな先生に根回しをして……そうやって時間をかけている間に、肝心の生徒たちの熱は冷めてしまうんです」

多くの学校が「今のままではいけない」と思いながらも、合意形成の壁に阻まれて動けない。そんな課題を解消するために、小津中学校では意思決定のあり方を変え、OECDが提唱する「AARサイクル」を実践の軸に据えました。

「完璧な計画はいらないんです。見通しが立ったらすぐにやってみて、またすぐに結果を振り返る。AARとは、Anticipation(見通し)・Action(行動)・Reflection(振り返り)の略です。3割決まったら、まずは動く。やってみてダメなら変えればいいし、やめてもいい。判断のスパンを意識的に短くしています」(大達)

どの学校にも当たり前のようにある朝の打ち合わせや職員会議も、小津中学校にはありません。

「校長が『この先生に任せる』と決めたら、その権限は完全に渡されます。細かい決め事はSlackで共有され、『懸念があれば教えてください。なければこれで進めます』と、フランクに意思決定がなされていきます。会議の時間は、企画書を読み合わせるためではなく、先生たちが関係構築をしたり、新たなプロジェクトを生み出すためのワークショップをするための時間に変わりました」(大達)

生徒の発案で年度途中に自治組織を改編

教員たちが「まずはやってみる」というマインドで動き始めたことで、生徒たちもまた、組織のあり方を変えようと動き出しました。

「今の委員会活動って、結局『先生のお手伝い』になっていない?」

そんな生徒たちの気づきから、小津中学校では長年続いてきた体育委員会や図書委員会といった常設の委員会をすべて廃止するという、大胆な決断が下されました。これまでは、教員に呼ばれて掃除を手伝ったり、行事の準備をしたりといった「与えられた仕事」をこなすことが委員会の実態になっていたからです。

「自分たちが本当にやりたい活動を、自分たちでやれる組織にしたい」

その願いを形にするために、生徒たちは自治組織をゼロから作り直しました。新たに導入されたのは、生徒会長に人事権を持たせる仕組みです。

選挙によって選ばれた生徒会長は、自らの公約を実現するために必要なメンバーを指名する組閣を行います。そこには、各学級と生徒会をつなぐ「統括官」、制服の見直しやコンパス検討を進める「ルールメイカーチーフ」、校内外への発信を担う「広報チーフ」、そして、有志プロジェクトをサポートする「企画官」など、実社会の組織さながらの実働的な役職が並びます。

中でも特徴的なのが、「財務官」の存在です。

通常、公立中学校において生徒会費などの予算管理は、教員の仕事と決まっています。しかし小津中学校では、生徒会費の使い道は財務官が決定する権限を持っています。クラブ活動への分配や新企画の予算など、「限られたお金をどう使うか」を自分たちで考え、運用することになったのです。

生徒たちが自分たちでやりたい活動を実現するためには、アイデアだけでなく予算も必要不可欠。財務官は、そんな生徒の主体的なプロジェクトを支える役割を担っていくことになるといいます。

授業1コマを45分に。余白を生み出す「ACTタイム」

一方で、生徒たちの主体的な活動が生まれる中で直面したのが、時間の不足でした。ルールメイキングやプロジェクトの打ち合わせを、放課後のわずかな時間を使って無理に行わざるを得ないという「カリキュラム・オーバーロード(内容過多による負担)」の課題を抱えていたのです。

そこで小津中学校は、時間割にも目を向けました。すべての授業を50分から45分へと短縮し、時間割全体をスリム化したのです。この5分の短縮が、放課後に30分の「ACT(アクト)タイム」と呼ばれるゆとりの時間を生み出しました。

何か新しいことを始めるなら、気合いや根性で時間を捻出するのではなく、まずは何かを削ってシステムとして余白をデザインする。

この決断によって、生徒たちは放課後の時間をたっぷりと使って自分たちの学校づくりに没頭できるようになりました。それと同時に、教員にとっても業務や協働のための時間が確保され、働き方の改善にもつながっています。

管理を手放し、責任を負う。校長の存在

教員や生徒の動きを背後でどっしりと支えているのが、校長の高橋敏也(たかはし としや)さんです。

従来の学校運営では、何をするにも校長の決裁や承認が必要とされるのが一般的です。しかし、小津中学校では違います。

「ミドルリーダーがやりたいと言い出したら、3割くらい決まっていればもう動き出します。ゴールが見えていなくても、全員の同意がなくても構わない。リーダーが言うことは、私が言っているのと同じ。リーダーは学校の教育方針を100%理解し、その考えは『学校のコンパス』の実現に向けたものであるという大前提があるからです。だから、いちいち承認する必要もありません。私が知らないうちに何かが始まっていることもよくありますが、それはもう『承認済み』なんです。リーダーがやろうと言ったら、みんなでやる。それが本校のスタンスです」(高橋)

なぜそこまで、現場にハンドルを委ねられるのでしょうか。

「校長である私の唯一の仕事は、結果についてきちんと責任を取ること。それだけです。権限を預けようが預けなかろうが、知らないところで何かが起ころうが、責任は私が負う。そう明言して『あなたに任せています』と伝えた方が、先生方も意気に感じて、自分の責任を果たそうとやる気が出ると思うんです」(高橋)

かつて自分自身が上からの指示で動かされることに違和感を抱いていたという高橋さん。だからこそ、表舞台はすべて教職員や生徒に譲っています。実際、2学期に全校生徒の前で話したのは、始業式と終業式のわずか2回だけだったといいます。

高橋さんが語るその言葉からは、教職員への信頼も感じました。

「特別なことをしているわけではありません。当たり前の、普通のことをしているだけ。子どもの権利を一番大事にする学校でありたい。ただそれだけなんです」(高橋)

4クラスを7人で。「チーム担任制」の導入

そんな高橋さんですが、「これだけはトップダウンでやろう」と決断したのが、担任制の改革でした。

2025(令和7)年度から、「チーム担任制(学年担任制)」を導入。それまでの「1クラス1担任」という既成概念を捨て、学年という大きな単位を教員チーム全員で支える仕組みへと舵を切りました。

クラス担任制では、どうしても自分の学級が最優先になり、隣のクラスで何が起きているかが見えにくくなる弊害がありました。また、生徒が特定の担任に依存しすぎることで、自立を妨げているのではないかという懸念もあったといいます。

導入された新しい仕組みでは、4クラスある学年を、7人の教員全員が担当します。その日に朝礼を担当する先生や終礼を担当する先生は、毎日のように入れ替わります。

悩みがあるときは学年の中にいる複数の先生の中から、自分が一番話しやすい先生を選んで相談できるようになりました。面談も、生徒自身が「この先生と話したい」と指名する仕組みになっています。

これは、生徒にとっては大きな変化。先生を選べるというのは良さでもありますが、中には「誰に相談していいかわからない」と戸惑う声もありました。

教員にとっては、複数人が多角的な視点で学年全体を見守るため、生徒の小さなSOSをキャッチしやすくなり、以前よりも丁寧に生徒たちに目を配ることができるようになりました。何より、1人の担任がクラスの課題をすべて背負い込むプレッシャーから解放されたことは大きなメリットです。

「新任の先生や講師の方が、1人でクラスを抱え込む不安がなくなりました。7人で仕事をシェアしているので、得意な分野で補い合えるし、急な休みもチームでカバーできる。教員の心理的な負担は劇的に軽くなりました」(高橋)

職員室の「フリーアドレス化」で生まれた変化

2023(令和5)年夏には、職員室の固定席を廃止し、毎日座る席が変わる「フリーアドレス化」を導入。

毎日隣に座る教員が変わるため、これまで関わりの薄かった他学年や他教科の教員とも自然と会話が生まれます。そこから多様な視点やアイデアが交わり、教科横断型の「コラボ型授業」など、教員同士が協働してワクワクする授業を創り上げる動きが活発になりました。

さらに、日常の立ち話レベルで、大達さんが重視する「AARサイクル」が回るようになりました。かしこまって会議を開くのではなく、たまたま近くに座っている教員に「これ、どう思います?」と相談し、「それでいきましょう!」と決断する。素早い意思決定が可能になり、複数のプロジェクトが同時並行で進む環境が整ったと言います。

校内には、生徒たちの手で作られた共有スペース「ヒュッゲ」も。授業や休み時間、放課後に使われている。写真左のテーブルも生徒たちの手で作られたものである。

管理を手放すことで生まれた「余白」

この変化を最も実感しているのが、この春に他校から赴任してきたばかりの教頭・堤真朗(つつみ まさあき)さん。21年間小学校に勤め、小津中学校の取り組みも十分に理解せぬまま着任した堤さんを待っていたのは、4月1日の職員室での驚くような光景でした。

「赴任の挨拶をしようと準備していたら、突然生徒たちが現れて、『学校のコンパス』についてのプレゼンを始めたんです。緊張する様子はありましたが、用意された原稿をただ読むのではなく、自分たちが創り上げたものをそれぞれが自分の言葉で堂々と語っていました。その姿を見て、『これは形式的なものではない』と思いました」(堤)

それまでは「問題が起こらないように、大人が管理しなければならない」と考えていたという堤さん。しかし、生徒たちの主体的な姿を目の当たりにし、学校づくりの土台は、生徒や先生を信頼し、委ねることなのだと考えるようになりました。

その変化は、働き方にも影響していきます。

「以前は時間外勤務がとても多かったのですが、それが今は月あたり4分の1ほど。定時ぴったりに帰れる日もあります。先生方を信頼して権限を任せているからこそ、無駄な会議や抱え込みがなくなり、私自身も心に余白をもつことができるようになり、精神的に追われる場面も少なくなりました」

フリーアドレス化され、真ん中が通路になっているオープンな職員室には、今日も生徒がふらっと通り抜けていきます。「ノックして、『失礼します』と言って待つ」といった風景は、ここにはありません。

特定の教員に用事があるわけでもなくやってきた生徒たちに、堤さんは自ら気さくに声をかけ、話し相手になっています。しばらく他愛のないおしゃべりをして、気が済むと「じゃあね」と満足げに教室へ戻っていく生徒たち。

「生徒を信じる」「生徒に任せる」ということは、決して大人が責任を放棄することではありません。

それは、大人たちが管理という名の鎧を脱ぎ捨て、学校の仕組みを見直して、心と時間に余白を生み出すこと。そして、その余白を使って、生徒と一緒にワクワクしながら未来を創る伴走者になることでした。

「生徒が創る学校」

かつて傷だらけだった小津中学校の校舎には今、「学校のコンパス」という羅針盤を手に、力強く自分たちの学校を創り上げる生徒たちと先生たちの姿がありました。

制服は10万通りの組み合わせから自由に選び、全校会議は生徒自身が設計・運営する。定期テストはなく、生徒の「好き」から探究プロジェクトが生まれていく――。

これが、ある公立中学校の日常だと聞いたら、驚く方も多いのではないでしょうか。

大阪府の南部、海沿いに位置する泉大津市立小津(おづ)中学校。キーコンセプトに「生徒が創る学校」を掲げる同校は、文部科学省の「研究開発学校」や経済産業省の「未来の教室」先進校に指定され、OECD(経済協力開発機構)とも連携して改革を進めるなど、今、全国の教育関係者が注目している学校の一つです。

しかし、最初から今のような学校だったわけではありません。

前編では、小津中学校がいかにして独自のビジョンを生み出し、生徒自身の手で学校の「当たり前」を変えていったのか。その歩みと、生徒たちの取り組みをお届けします。

生徒が設計する「おづこれ会議」

「まず最初に、『学校のコンパス』の3つの姿に当てはめて、自分の1年間を振り返ってください」

2026年2月5日。泉大津市立小津中学校の各教室では、教壇に立つ生徒たちの少し緊張した声が響いていました。生徒たちは3〜4人で「学校のコンパス」が書かれたワークシートを囲み、付箋に書いたそれぞれの振り返りを貼り付けていきます。

「学校のコンパス」とは、小津中学校における最上位の学校運営方針(ビジョン)であり、生徒が卒業時に目指したい姿を言葉にしたもの。

2023(令和5)年度に初めてつくられた「学校のコンパス」は、毎年生徒たちの話し合いによりアップデートされてきました。2025(令和7)年度は、「信頼(余白・対話・言葉の力による)」を中心に、以下の3つの柱から構成されています。

1. 自芯をもつ:「踏み出す」をくりかえして身につけた自信と自分の芯
2. 認め合う:周りを見て考え、人のために行動できる
3. 「やわらかさ」で0から1を創る:遊びを学びに・学びを遊びに

この日、行われていたのは「おづこれ会議」。

おづこれ会議とは、「小津(おづ)のこれから」を考える全校会議のことです。生徒や教員が参加し、理想の学校の姿について話し合うための場として、2022(令和4)年度から始まりました。

2時間の会議は、すべて生徒たちが設計しています。スライドの準備や時間の使い方の検討、問いの設定、ワークシートの作成、当日の進行までも生徒たちが担い、教員は基本的にその様子を見て回り、必要に応じてサポートするのみです。

中には、2年生のクラスの進行役を1年生が担っている教室もありました。事前に準備した台本を片手に、緊張した面持ちで懸命に役目を果たそうとする姿勢が伝わってきます。参加する生徒たちの中には、積極的に意見を出す子もいれば、どう発言していいか戸惑っている子もおり、その主体性や参加度には当然ながら違いが見られます。

より活発な議論ができるよう、進行役の生徒たちは、会議を始める前に自分たちで決めた「認め合う」ための対話のルールを丁寧に伝えていました。

・耳をすまして聞く
・沈黙を歓迎する
・否定したり決めつけたりしない(違いを楽しむ)
・お互いの顔色を伺わない
・考えが変わってもOK
・対話を楽しむ
・個人が特定される形でマイナスなことを言わない
・関係ない「仲間内の変なノリ」に逃げない

このルールを聞くだけで、多様な生徒たちが、自分の意見を安心して言えるための配慮がなされているのが伝わってきます。

3学期に入ったこの日のおづこれ会議で話し合われたのが、「学校のコンパス」の振り返りと「先生のコンパス」の振り返り。そして、「保護者のコンパス」をつくるための意見交換。

※ 「〇〇のコンパス」という言葉は、OECDが提唱する未来の教育枠組み「ラーニング・コンパス(学びの羅針盤)」に由来しています。(参考:https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/about/projects/edu/education-2040/concept-notes/OECD_LEARNING_COMPASS_2030_Concept_note_Japanese.pdf

「先生のコンパス」とは、小津中学校の教員のあり方の指針をまとめたもの。生徒たちの声を踏まえ、「おづこれ会議」での話し合いを重ねてつくられました。学校のコンパスに基づいて、ここでも『信頼(「できる前提」で生徒と関わる)』を軸に、以下の3つの柱から構成されています。

1. 成長の場を与え、任せ、見守り、ともに喜ぶ
2. 「あなた」を認める。先生が「認め合い」の連鎖の起点となる
3. 生徒と先生の壁をなくす。生徒・先生、双方の「好き」と「遊び」を大切に


「保護者のコンパス」は、「先生のコンパス」に続いて作成が進められている保護者のあり方の指針です。この取り組みの特徴は、教員や生徒からではなく、保護者自身の提案がきっかけで始まったところです。

この日は、「保護者のコンパス」をつくるために、生徒たちが「保護者からのどんな関わりが嬉しかったか、あるいは嫌だったか」を出し合います。さらに、「もし自分が保護者だとしたら、子どもにどう関わりたいか」と、立場を逆転して考えるワークも行われました。

組み合わせは10万通り。「自分らしさ」を選ぶ標準服

教室を見渡すと、パーカーの上にブレザーを羽織る生徒やラフなズボンを履いた生徒の姿が目に入ります。

実は、小津中学校の制服(以下、標準服)は、生徒たちが主体となって校則を見直す「ルールメイキング・プロジェクト」によって2022(令和4)年度に生まれたものです。以前は、男女で分けられた学ランやセーラー服でしたが、生徒たちが企業の方と話し合いを重ね、多様性に配慮した新しいブレザータイプの標準服を完成させました。さらに、学校が指定した衣料品店ユニクロの既製品を自由に組み合わせることもできます。

その組み合わせ方は、10万通りを超えます。誰かが決めた「中学生らしさ」や「性別による枠組み」に自分を合わせるのではなく、その日の体調や気分、自分らしさに合わせて服を選ぶことができます。

生徒の声から生まれた羅針盤

生徒が学校の経営方針を語り、自分たちで対話の場を設計する。そんな姿に近づくきっかけとなったのが、2021(令和3)年度に生徒主体で行われた学校行事「新劇の祭典」でした。

感染症の流行により、多くの行事が中止になる中を過ごした生徒たちから、「コロナ禍でも学校全体で行うことができ、みんなが笑顔になる行事を行いたい!」という声が上がったのです。

この提案があったのは、年度途中の5月。通常、学校ではすでに年間スケジュールが決まっている時期です。そのため、予定外の行事を実施することに対しては、教員間で懸念の声も上がっていました。そんな中、校長の後押しもあり、最終的には「やってみよう」「生徒たちに任せてみよう」という雰囲気で行事に向けた準備が進んでいくこととなったのです。

1ヶ月半ほどの間に、企画や台本づくり、当日の運営や音響、照明に至るまで、ほぼすべてを生徒たちが担って当日を迎えました。観覧した地域の人や保護者の中には、嬉しさや感動で涙を流す姿もあったのだそう。

この出来事とほぼ同時に行われていたのが、「ルールメイキング・プロジェクト」による前述の標準服の見直し。どちらも、生徒が主体となって学校を創っていく取り組みです。これを機に、教員たちは「ここまで生徒たちに任せていいんだ」という意識に徐々に変わっていき、学校のいたるところで生徒の意志が尊重される文化が定着していきました。

※ ルールメイキング・プロジェクト:生徒が主体となって校則やルールを見直す活動のこと。小津中学校では、認定NPO法人カタリバのサポートを受けながら進められている。

そして、この2つの出来事は、「学校のコンパス」づくりへと発展していくことになります。

「校長先生やルールメイキング担当の先生が転勤してしまったら、小津中は元の校則や雰囲気に戻ってしまうんじゃないですか?」

ルールメイキング・プロジェクトに関わった生徒から、こんな懸念が出てきたのです。

この文化を一過性のもので終わらせるのではなく、学校の当たり前として根付かせたい。話し合いの末に至った結論は、そのためには、具体的なルール以上に「自分たちがどんな学校を目指し、どんな姿になっていたいか」という最上位の方針、つまり「ビジョン」が必要なのではないか、ということでした。

こうして2022(令和4)年度の冬、全クラスで「おづこれ会議」が開催され、卒業時に目指したい姿についての意見が交わされました。集まった膨大な意見を集約したのは、有志の生徒たち。しかし、意見を3つに絞り込む作業は難航し、生徒たちは行き詰まってしまいます。

そのとき、教員から「今の社会や学校ってどう思う?」という問いかけがありました。

「大人は自己保身に走っていて、何も決められない」

「小津中生も、間違いを恐れてチャレンジできない人が多い」

生徒たちの口から出てきたのは、思考が固まった「かたい社会(学校)」への違和感でした。そこから「このかたさを、自分たちの手でやわらかくしたい」という共通の願いが生まれます。

こうして、「自芯をもつ」「認め合う」「『やわらかさ』で0から1を創る」という3つの柱からなる、小津中学校の羅針盤「学校のコンパス」が完成しました。

学校の枠を越える「共創プロジェクト」

2023(令和5)年度に生まれたのが、小津中学校の核となる探究学習「共創プロジェクト」。

「他学年の人と一緒に学びたい」
「自分が学びたいことを学びたい」
「校外の専門家と一緒に活動したい」

そんな「おづこれ会議」で出された生徒たちの願いを、そのまま授業のカリキュラムに組み込んだのがこの取り組みです。

活動の起点は、生徒自身。やりたいことがある生徒が自ら企画を提案し、リーダーとなってプロジェクトを立ち上げる。そこには学年の壁はなく、同じ興味を持つ仲間が学年を越えて集い、チームで動きます。教員は教える立場ではなく、生徒たちの声に耳を傾け、困ったときには助け、基本的には信じて任せる「伴走者」として見守っています。

実際に活動が始まると、学校の壁を越え、地域や企業、さらには世界とつながる活動が生まれました。

例えば、あるチームは、戦時下のウクライナの人々に手作りカレーを届けようと、フードロス食材を活用した支援を探究。またあるチームは、泉大津市の神社にある仏像を一般公開する企画を立て、全国から600人もの仏像ファンを集めました。さらには、企業と共同でAIキャラクターのデザインを行い、実際に全国の中学生が使う英会話アプリの開発に携わるプロジェクトまで。

中には、「共創プロジェクト」での経験を大阪府内のスピーチコンテストで語り、1位を獲得した生徒もいます。「自分の『好き』や『問い』が、社会の誰かを笑顔にする」という経験が、結果として、学校外の場で評価されることにつながったのです。

それは、決して一部の生徒の変化ではありません。

「自分たちの手で、社会は変えられる」

教員たちは、生徒たちの中にそんな自信が育まれていると言います。同時に、クラスという枠組みでは自分を出し切れなかった生徒にとっても、好きなことでつながれるこのプロジェクトは、学校における大切な居場所にもなっていると言います。

もちろん、最初からすべてが上手くいったわけではありません。活動の枠組みが曖昧だったり、一部の生徒に負担が偏ったりといった課題も浮かび上がりました。

しかし、「1プロジェクトを8人以下の少人数にする」「成果発表会という明確なゴールを設定する」などの改善を重ね、その後も常にアップデートを繰り返しています。

生徒の挑戦を支える評価の仕組み

生徒たちの「共創プロジェクト」の取り組みをより深めている要素の一つが、小津中学校独自の評価のあり方です。同校では2020(令和2)年度から定期テストを段階的に廃止するなどの取組みも行っていますが、特に共創プロジェクトの評価は「自己評価能力育成シート」によって行われています。

このシートが現在の形になるまでには、一つの転換点がありました。「共創プロジェクト」が始まった当初、運営に関わる外部の専門家から、ある指摘を受けたのです。

「プロジェクトを通して『何を学んだのか』についての評価が不十分である」

「生徒が自分自身の成長を捉えるための、自己評価能力の獲得を目指すべきではないか」

指摘を受けた学校側は、すぐに改善に向けて動きました。そこで生まれたのが、教員が一方的に生徒をジャッジするのではなく、生徒自身が自らの現在地を確認するための「自己評価能力育成シート」でした。

特徴的なのは、評価の軸がすべて「学校のコンパス」に直結していること。「自分の考えを持ち、人に伝えたか?」「新しいアイデアを生み出したか?」など、生徒たちはプロジェクトや行事の節目ごとに、学校のコンパスに照らして自分の行動を振り返り、自らの言葉で言語化していきます。現在はさらに進化し、自分だけでなく仲間同士で認め合う「他者評価」の仕組みも取り入れられています。

「評価とは、誰かに×をつけられるものではなく、自分が次の一歩を踏み出すための糧にするもの」

「学校のコンパス」が単なる壁に貼られたスローガンにならず、生徒一人ひとりの指針となっている背景には、このようなマインドが浸透していることもあるようです。

 現在、小津中学校ではさまざまな活動で培った非認知能力をどう評価し、どう生徒や保護者に伝えるかという検討も行われているそうです。

生徒の主体性を支える「学校の仕組み」改革【後編へ続く】

自由な服装、自分たちで設計する会議、そして、社会を動かすプロジェクト。

これほどまでに生徒へハンドルを委ねることは、大人たちにとって勇気の要る決断だったはずです。

後編では、生徒たちの学びを支えるために学校が決断した「担任制の廃止」や「授業時間の短縮」といった仕組みの見直し、そして校長や教頭、教員たちの思いを伺います。