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2023年5月、川崎市内の小学校で教員がプールの水を誤って流し続けてしまう出来事がありました。その後、川崎市は担当した教員と校長に多額の損害賠償を請求。この一連の出来事が話題になっています。

同様の出来事は他の自治体でも起こっており、今後も起きる可能性は否定できません。今回の件に対する意見と、勤務校や自治体のプール管理の現状について、全国の教職員の方に聞きました。

参考記事:プールの水流出 95万円弁償 教員の責任はどこまで?(NHK)

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2023年9月8日(金)〜2023年10月10日(火)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :114件

アンケート結果

設問1 プール水道代の賠償請求についてどう思う?

Q1. 今回の賠償請求についてあなたの意見を教えてください。

「おかしい・理不尽である」を選択した人の主な意見

ヒューマンエラーが起こらないようにシステムを構築するのが自治体の役割なのに、その責任を放棄して個人の職員に責任を転嫁している。非常におかしい事案。【中学校・教員】

どこかが賠償せねばならないのかもしれないが、額も大きく、チェック体制の課題もあるため、一教員に負わせるべきではないと思う。【義務教育学校・教頭】

本来、教師が担うべき業務ではない。有資格者に業務委託することやヒューマンエラーを補うシステムを構築する責任が市や教育委員会にはあるはず。業務のマニュアルもなく、本来の業務以上のことを担わされていること自体が問題。今回は賠償ではなく、市の水道局から請求しなければいい。【小学校・教員】

そのような賠償を伴う責任ある仕事ならば、それなりの対策をたてるべきだったのであり、最終責任は管理職や教育委員会にある。同じ給料体系なのに、その仕事だけ賠償責任を負うようならば、誰もやりたくない。教育活動が仕事のはずなのに、施設の管理責任を負わされるのでは、教員のなり手がますます減る。【高等学校・教員】

「どちらかというとおかしい・理不尽である」を選択した人の主な意見

気の緩みであるという批判はその通りだと思う。一方で、ある程度の頻度で起こるヒューマンエラーでもあるのに、現場・委員会が対策を怠ってきたことも確か。止まることなく次々にタスクをこなさなくてはならないという仕事内容を考えると、何らかの対策を取るべきです。一貫してプール管理を担う人員が必要だと思う。【小学校・教員】

税金で運営されている学校の性質を考えると、このような事態になっての手続きは法律、決まりに則って行われており、やむを得ないと思う。が、毎年同じミスが全国で起きているのに、施設自体に工夫をして再発防止をしていないところがおかしい。今、お風呂だって入れたら音でしらせてくれる。税金を大事に使うべき、再発防止をするなら、教員に「頑張らせる」のではなく、ミスが起こりにくいシステムを構築すべき。何でもかんでも教員に押し付けないで欲しい。センサーを使っての管理など専門の業界団体に協力をお願いするなど対策して欲しい。【小学校・教員】

自治体がミスを補填すると税金で埋めなければならないから個人で賠償させる。というのは一理あるが、労働者として民間と同じ基準で対応してほしい。報道を見ると水の出し入れの誤操作と簡単に記載されるが、実際の設備を見るととても複雑に菅が組まれていて、バルブが複数ありとても簡単に操作することができないものもある。学校でマニュアルを整えていない責任はあるが、設備自体を古いものは改修してほしい。【小学校・事務職員】

「どちらかというと仕方ない・妥当である」を選択した人の主な意見

理不尽なところはあるとは思う。個人への責任を押しつけるのは如何と思う。ただ、5日間?という期間を考えるとそこに至るまで誰も気付かなかったのかという管理責任は問われても仕方ない部分もある。自分も体育主任を長い間務めてきたが、水管理には細心の注意を払ってきた。そういう指導助言がなされなかったのは問題ではないでしょうか。【小学校・副校長】

「仕方ない・妥当である」を選択した人の主な意見

個の過失である出来事だと判断したから。請求は、本来かかった水道代の半額であるということでもあり、金額は水を出しっ放しにしてあった期間が長った分、高額だが、個の過失のため払う義務はあると思う。【小学校/中学校・教員】

「プールの水を“誤って”流し続けた」ので、過失がある人が責任を持ち支払うべき。過失に対して税金を補填できない。【高等学校・教員】

「わからない」を選択した人の主な意見

この先生の勤務状況が分からないからです。毎日遅くまで働いておられたり、ご家庭が厳しい状況であったり、その日クラスでもめ事があったりいろんな状況が考えられるので、起きた事象だけでは判断できません。【小学校・教員】

金額が大きいこともあり、学校側だけに責任を追及することに違和感を感じます。誰もこんなことを起こしたい訳ではないとも思います。しかし、こういったプールでの事案は今後も出てきそうな気もしています。そうならないためにも、委託を考えるなど新たな方法を検討していただきたいと思います。【小学校・教員】

「おかしい・理不尽である」と回答した人は全体の71%にのぼり、「どちらかというとおかしい・理不尽である」と回答した人は21%でした。多くの教員が、担当教員や校長に対して賠償責任を負わせることに反対意見を持っていることがわかります。体育を担当している教員(38人)に絞って回答を見ると、「おかしい・理不尽である」と回答したのは60%。「どちらかというとおかしい・理不尽である」と回答したのは26%でした。

「おかしい・理不尽である」と考える理由としては、「プールの管理体制に課題があったのではないか」「最終責任は管理職や教育委員会にある」などがありました。一方で、「仕方ない・妥当である」と考える理由としては、「管理責任は問われても仕方ない」「過失に対して税金を補填できない」などがありました。

設問2 今後採られるべき対策は?

Q2. 今回のようなケースを防ぐために今後どのような策が採られるべきだと考えますか? 最も望ましいと思うものを1つお選びください。

「教員が管理する前提で、ミスを防ぐ体制構築や研修を行う」と回答したのは、全体の5%で、その他はすべて約20〜30%の人が選択しており、回答にばらつきが見られました。体育科教員に絞って見ると、「教員が管理する前提で、ミスを防ぐ体制構築や研修を行う」と回答したのは0人。同様に回答のばらつきはあるものの、特に多かったのは「公営や民間の屋内プールの活用を進める」で34%でした。

「その他」を選択した人の主な意見

人員が少なく、分掌を一人でもつことも珍しくない状況に無理がある。分掌を複数でもてるだけの人員が必要だ。【小学校・教員】

教員が管理する前提で、最終的な責任は管理職がとる。【小学校・教員】

教員の人数を増やして、ダブルチェックなどを行える体制を整える。【高等学校・教員】

水を出した人が確認すればよい。【高等学校・教員】

民間に委託できる都市部はいいけれど、地方では民間委託は厳しいので、そちらは自動装置が必要。【小学校・教員】

設問3 勤務校のプール管理の体制やシステムは?

Q3. 勤務している学校や自治体における、プール管理の体制やシステムについて教えてください。よい面・悪い面を含めてお答えください。(任意)

主に体育科の教員が管理している

体育主任が中心となって管理しています。どこの学校も、管理職に体育主任経験者が多く、「昔は俺もやっていたよ」と言われてしまい、体制を変えることは難しい状況。夏休み中は日直が水質管理を行っていますが、体育主任も休み返上でお盆期間等に見回っています。夏休み中のプール開放は行われておらず、休み明けの授業のために水質維持をしています。【小学校・教員】

体育主任を中心に校内分掌の体育部で運営する。各学年や島ごとに水栓の開け閉め、水位の調整、掃除用ロボットの投入、施錠などを輪番で行うが、土日や夏休み等の管理は体育主任、体育部が負担することが多い。【小学校/義務教育学校・教員】

体育部のプール担当が主となってやっています。大体若手の男性教員が多いです。設備が古いので、ちゃんと稼働しているかこまめにチェックしなければならず、かなり負担になっていると傍目から見ても思います。【小学校・教員】

複数の教員で分担して管理している

小規模校のため、限られた期間をほぼ全職員管理体制で見ている感じ。清掃はPTAも巻き込んで。使用の割に雑多な業務は辛いが、周囲にプール施設はないため、委託はできない。【義務教育学校・教頭】

基本は複数の先生で管理するように体育主任が呼びかけています。最新のプールでないので、どうしても人の手での作業、管理が必要なので、やり方を広めています。以前の学校はプールが古く、濾過機の洗浄、逆洗、ヘアーキャッチャーの掃除をほぼ毎日必要だったので、作業ができる人を増やすために声をかけましたが、協力してくれるのは少数でした。【小学校・教員】

​​プール当番の学年が、朝と放課後にプールの管理をチェックして日誌に書いて体育主任に出している。【小学校・教員】

その週の日直担当の学年が管理している。3クラスであれば、2〜3人の担任が水温を測ったり水を止めたりしていて、複数で行うことでミスを防ぐことができている。【小学校/中学校・教員】

貯水は体育担当で、毎日の水質は基本的に教員が交代で管理。ただでさえ時間がない朝に水質を確認したり、塩素を投入するのはきつい。また、年に数回しかない業務なので、しっかり管理方法がわからないままやらされている。【小学校・教員】

設備の老朽化が進んでおり、管理のしづらさがある

プールの管理というのはボタンひとつで済むものではなく、老朽化した施設を大変な作業で止水するものもある。古いところも多くコンピューター化されているわけでもなく、手間もかり人的なミスが起こるのも仕方がない構造である。【小学校・教員】

設備が古い、または、操作が難解。明らかに、教員を行う者の専門性とは異なる専門性が求められるものが多い。今年度は、外部に日々の管理をお願いしたり、機器の修繕や操作を行なってもらったりすることができ、負担は少なかった。【小学校・教員】

従来の古い体制のままで何ら変わっていないため、良さが見つからない。毎年水漏れなどの施設の補修をしているが、一向に改善しない。施設的な限界がきているが、作り直しなどの改善の話は何もない。今の子たちは虫の死骸の浮く屋外プールに拒否感を持つ事も少なくなく、現状のシステム・施設は限界を超えているのではないかと思う。【小学校・教員】

施設の老朽化がみられ、濾過器の運転が止まり、さらに異常な暑さのため藻が発生し、清掃しなおし、水の入れ替えを行った。プールサイドやプールの底のコンクリート部の亀裂や破損も多く、パテ等で修繕はしているがケガの心配がある。【小学校・教員】

民間施設を利用しているため、学校での管理はしていない

民間の屋内プールを借りているが、水のことについて一切心配することがないので気楽。ただ、相手がいることなので、自由に使用できないのが難点。【小学校・教員】

外部のプールで外部指導者による水泳学習を行う。校内のプール管理がなくなったのはすごく良い。ただ移動に時間がかかる。【小学校・教員】

うちは、本当にありがたく公立の市民プールを学校がお借りする形(併設しています)なので水質管理は全て外部委託です。控えめに言って最高です!授業の際も教員の他に監視員さんがついていてくださるし、室内なので中止にもならず予定が組みやすいです。唯一、強いて言えば急な予定変更はできませんが、それは水泳第一で前もって予定を組めばいいだけ。メリットの方が多いのでこのままがいいです。【小学校・教員】

まとめ

今回の賠償請求に対して、「おかしい・理不尽である」「どちらかというとおかしい・理不尽である」と回答した人は、全体の90%以上にのぼりました。その理由としてあがっていたのは、「プールの管理体制に課題があったのではないか」「最終責任は管理職や教育委員会にある」など。一方で、少数ではありましたが「仕方ない・妥当である」「どちらかというと仕方ない・妥当である」という意見もありました。理由としては、「管理責任は問われても仕方ない」「過失に対して税金を補填できない」などがありました。

改善策については、「教員以外の責任者を置く」「自動装置の導入」「公営や民間プールの活用」「水泳授業の廃止や民間委託」など、それぞれ約20〜30%の人が選択しており、回答にばらつきが見られました。

勤務校のプール管理の現状としては、体育科の教員が中心となって行っているという回答が多く集まりました。中には、学年ごとや日直が担当したりと、管理の負担が体育科の教員に偏らないような工夫をしている学校もあるようです。懸念としては、主に体育科教員への負担が大きいことや、管理の操作が覚えにくいこと、設備の老朽化による管理のしづらさなどがあがっていました。

勤務時間前や休み時間にも操作する必要があり、業務の負担にもなっていることが伺えます。教員の働き方改革の観点においても、プールの管理体制について改めて見直していく必要があるのではないでしょうか。


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ドイツの教育学者ペーター・ペーターゼンによって創始され、オランダで広がったイエナプラン教育。一人ひとりを尊重しながら、自律と共生を学ぶことを大切する教育方針は日本の教育者の間でも注目されるようになりました。

今回お話を伺ったのは、静岡県の川根本町立三ツ星小学校でイエナプラン教育の実践を続ける濵大輔さん。同校は、3つの小学校を再編して2023年4月にスタートした新しい学校です。

筆者はある1日の濵さんの授業の様子を見学させてもらい、今回のインタビューのお時間をいただきました。濵さんの具体的な実践や大切にしている考えを紹介します。

子どもの関心を出発点にしながら、ともに学ぶ

—— イエナプラン教育とは、どのような実践なのでしょうか。

ともに生きることを学ぶ。一言でいうと、それがイエナプランの特徴だと思っています。もう一つあげるとしたら、生きた学びであること。教員から学習内容を提示するような学び方ではなくて、子どもたちの関心を中心に対話を重ねながら学んでいくんです。

僕の授業ではすべてをそうしているわけではないので、先に目標を提示したりドリル教材を使ったりすることもあります。理想的には、子どもの内側から湧いてきた問いを出発点にした活動をできる限り多くしたいなとは思っています。

—— 具体的には、過去にどんな授業がありましたか?

昨年度担当していたクラスでは、点字器(点字を打つ機械)についてワールドオリエンテーションをしました。

※ワールドオリエンテーション:子どもたちの経験世界にある本物の事象に対する子どもたち自身の内発的な問いに基づいて探究を行い、科学研究のプロセスを仲間とともに学ぶ協働活動(出典:https://onl.bz/Xq9ah2J

ある子が、「全盲のおじいちゃんに手紙を書いた」と言って、そのときに使った点字器を学校に持ってきたことがありました。みんなで点字器を観察する過程で、「どうやって使うんだろう?」「点字ってどう読むんだろう?」などの質問が出てくるわけです。それを僕がマインドマップにまとめて、どんな役割分担で探究していくかをみんなで考えました。

そのときに子どもたちに伝えたのは、一次情報と二次情報の違いです。その上で、みんなにはできるだけ一次情報に触れてほしいという僕の思いを伝えました。すると出てきたのは「おじいちゃんに直接話を聞くのが1番いい」という意見。では、どうやったらおじいちゃんに会えるか?それをみんなで考える。実際に会って話を聞くことができたら、各自が担当する問いについてさらに探究していき、最後はそれぞれが学んだことを発表しました。

—— まさに子どもの関心が出発点になっていますね。ただ、学習指導要領で定められている学習内容にも合わせる必要があると思います。その点の難しさはありませんか?

どの学年でどんな内容を扱う必要があるかは、あらかじめ把握しておくようにしています。なので、学習指導要領の内容を意識して、僕から「ここについて疑問に思うんだけど、調べてみない?」と投げかけることもあります。誰からも手が挙がらないときは、僕が調べて最後に発表することもある。そうすると、結果的には学習指導要領で定められている内容にもみんなが触れることができます。

みんなで協働しながら学ぶ時間の他にも、「週計画」と呼んでいる自律学習の時間が1日2〜3時間あります。そこでは、国語や算数などの枠の中で、それぞれが何をどう学ぶかを決めることができます。

一人ひとりを尊重し、安心して学べる環境を整える

—— 教室での机の配置は、多くの学級で見るような講義形式ではありませんでしたね。常にこのかたちで授業を進めているのでしょうか?

そうですね。今は、教室の真ん中に椅子を並べてサークルを作っていて、その周りにいくつかのグループを作るように机を並べています。一人で集中したいときのために、教室の隅にはカーテンで覆った個人ブースもあります。

最初からこのかたちだと不安になる子もいると思ったので、そこは慎重に変えていきました。サークルになる場所は残しつつ、初めは机を黒板の方に向けておいて、漢字や計算の練習をするときは僕が黒板の前に立って説明しました。子どもたちには、既に経験してきた「授業はこういうもの」というイメージがあると思うので。そこから少しずつサークルになって集まる体験を重ねていき、机も前向きではなくグループになるような配置に変えていきました。

—— 授業の中では、自律学習や共同学習に取り組む際、そのねらいを子どもたちに丁寧に説明しているように見えました。

子どもも1人の人間だと思っているので、そういう関わり方をしているんだと思います。同じ人間としてできる限り相手を尊重しようと思うと、理由や背景は説明しますよね。

ただ、最初の頃は「必要性に迫られたから説明するようになった」というのが正直な答えです(笑)今までとは違うやり方をすると、子どもたちから「なぜ?」という問いが自然に生まれてきます。

例えば、「漢字ドリルを先に進めてもいいよ」と伝えると、中には「なんで先に進めてもいいの?」と思う子もいる。特に、先生が言ったことをきちんと守っていたからこそ評価されてきたような子たちは戸惑うわけです。なので、背景にある考え方を伝えるようになりました。特に小学校高学年になると、そうしないと取り組んでもらえなかったんです。

時間をかけて、丁寧に。「学級通信」で伝え続ける

—— 新しい実践に対して、同僚の先生たちの間ではさまざまな意見があると思います。先生たちとの関わりで大切にしていることはありますか?

今の僕は「川根本町型授業づくり研究員」として委嘱されています。さらに校長からは、「イエナプランナビゲーター」という校務分掌をもらっている。そういう役職がすでにあるので、僕の実践に対して真っ向から否定する人はいません。

けれど、それに対して僕が「自由にさせてもらいますよ」みたいな感じで一人で突っ走っていくと、周りの先生はたまったもんじゃないですよね。そもそもこれは僕だけの実践ではなくて、先生たち全員の学びにつなげて学校全体で取り組んでいく必要がある。それをしていくために、まずは僕から自己開示していこうと思い、年度当初に思いを綴った通信を先生たちにお渡ししました。

もちろんそれを渡したからと言って、簡単に理解してもらえるわけではないと思っています。僕の考えを伝えたり実践を見てもらったり、対話を重ねたりする時間が必要なんです。それは保護者に対しても同じです。なので、週1,2回のペースで発行している学級通信は、保護者と先生たちにお渡しするようにしています。

自分の“原体験”を大切に。理想は手放さず、続けてほしい

—— 最後に、濵さんのような取り組みをしたい先生に向けてメッセージをいただけますか。

何かを変えたいと思っている先生には、きっと“原体験”があると思うんです。その体験があるから、「自分はこういうクラスや授業をつくりたい」と思うんじゃないかな。

僕の場合は、特別支援学校に勤務していたときに出会ったある生徒の変化がきっかけでした。「自分の中から出てきた関心は、こんなにも人を変えるんだ」という驚きがあった。特別な場所で学ぶこともいいことではあると思ったけれど、僕としては、一人ひとりの関心やペースに合わせた教育を、日本中の子どもたちが体験できるようになるべきだと思ったんです。どうしたらそれができるんだろう?と考え続けて、今の実践がある。

多くの人は、自分の理想を持ちながらも「教科書の内容をやらないといけないから」「隣りのクラスに合わせないといけないから」とか、いろんな壁があると思うんです。それは無視できないけれど、諦めてしまったらそれ以上のものにはなりません。なので、それぞれの理想は手放さずに、小さいところからでも自分が大切にしたい実践を続けてほしいですね。

受験戦争のイメージが強い韓国の教育。大学への進学率は7割を超え、過去10年間、毎年その割合は上昇し続けています。根強い学歴主義の思想がある一方で、教育のあり方を問い直す動きもあります。

2023年夏、NPO法人School Voice Projectでは教育視察ツアーを企画し、全国の教員や教育関係者18人とともに、韓国を訪ねました。現地コーディネートは東京生まれで韓国に住んで10年になる曺美樹さん、ツアーの全体進行は本NPO理事の武田緑が務めました。向かった場所は、韓国の教職員組合やオルタナティブスクール、包括的性教育に特化した教育施設など。4日間でオプショナルツアーを含め8つの施設を訪問してきました。

現地の方のお話を直接お聞きしながらさまざまな施設を見学することができ、それぞれが改めて教育のあり方を見つめ直す機会となりました。この記事では、訪問先で見聞きしたことや参加者の感想をお伝えしていきます。

※こちらの記事でご紹介する内容は、あくまで韓国の教育の一面であることをご承知おきください。

1日目

教員の権利と真の教育を守る「全国教職員組合」

韓国の教員団体の1つである全国教職員組合(全教組)。現在の加入率は10%ほどで、4万人の組合員が所属しています。私たちが訪問したのは、全教組の方が活動する施設。そこで組合員の方から学校教育の現状や課題をお聞きし、施設見学をさせてもらいました。

全教組は1989年に独裁政権下で結成され、民主主義や人権の擁護、反競争主義、反新自由主義のスタンスを持って活動をしています。結成当時は「不法組織」とされ、1500名余りの組合員が解雇され、激しい弾圧を受けた過去もあります。そんな中でも、労働者としての教員の権利保障と「真の教育」をモットーとして活動を続けてきました。

現在、韓国の教育業界で最も注目されているニュースとしてお話ししてくださったのが、「教権問題」です。2023年7月18日に、ソウル市内の小学校に勤務する初任教員が校内で自死するという衝撃的な出来事がありました。その背景にあったのが、児童虐待処罰法と校内暴力予防法(両法律についての内容は、下記で説明しています)。これらの法律ができたことで、教員が適切な生徒指導を行えなかったり、保護者からの過度な要求やクレームが増加したりと、さまざまな課題につながっているのだそう。この出来事がきっかけとなり、教員が不当な圧力を受けることなく、人権を守られた状態で教育活動を行う権利を訴えるために、1〜4万人規模の自発的な“追悼集会”というデモが毎週開催されるようになりました。2023年8月現在は、「教員の生存権保護を!」をスローガンに、20万人規模のデモに膨れ上がってるのだそうです。

< 参加者の声 >

成績は高いけど興味関心が低いことや、休み時間に生徒全員が疲れて寝ている光景がよくあるということを聞いて驚きました。受験戦争が激しいイメーシは持っていましたが想像以上でした。また、組合活動が盛り上がるきっかけになった自死した高校生が、「生徒の幸せは成績順で決まるわけではない」とメモを残していたというお話も心に残りました。

2日目

体験を通して“性”を学ぶ「アハ!ソウル市立青少年性文化センター」

アハ!ソウル市立青少年性文化センターは、青少年保護に関する法律とソウル市の青少年センター設置条例を根拠に1999年に設立された包括的性教育に特化した教育施設。YMCAがソウル市から業務委託を受けて運営されています。全国57の性文化センターの中で、このアハ!センターは一番最初に設置されました。取り組みとしては、恋愛やSex、身体、アイデンティティを学べる体験学習プログラムの開発や提供、性に関する人権相談室、さまざまなキャンペーンや研究などがあります。

上記の写真は、かばんの中身を見て持ち主が誰かを当てるワークで使います。例えば、一つのかばんの中に「エプロン」と「髭剃り」が入っていることもあります。多くの子どもが違和感を覚えるような持ち物を一緒に入れておくことで、ジェンダーに関するステレオタイプをほぐしていくねらいがあるのです。

< 参加者の声 >

包括的性教育に特化したセンターでありながらも、市域の青少年の居場所の1つとして位置付けられているところは興味深かったです。センターを運営されている方々が「これが子どもたちのためになっているのか?」「本当に必要なことなのか?」「これの目標は何なのか?」など真摯に問い続けていることも、お話を伺いながら感じ、共感しました。

韓国のオルタナティブスクール「コヤン自然学校」

既存の教育制度とは違う理念や仕組みで運営されている学校は「代案学校」と言われ、国から認証されている学校もあります。コヤン自然学校はシュタイナー教育をベースにしたカリキュラムを組んでいる代案学校で、国からの認証も受けています。小学生から高校生までの約100人の子どもが通っており、教員、子ども、保護者の三者が協働して学校をつくっている点が特徴的でした。大切にされているのは、自立と共生。そして、知識の量を増やすことよりも知恵を育むことに重きを置いています。ここでは先生だけではなく、生徒、保護者の方とも交流を深めました。

< 参加者の声 >

保護者の方に「受験勉強から離れるような選択をしたことで、不安になることはありませんか?と聞いてみたところ、「あります」と言っていました。不安になることはあるけれど、その度に教育の本質を思い出すようにしているそうです。そのためにも、保護者が学校教育に積極的に参加することで、その意義を体感することが大切なのだろうなと感じました。

3日目

より良い教育の実現に向けて活動する「実践教育教師の会」

実践教育教師の会は2000人以上の教員が加入している団体で、実践研究を共有したり教育政策の提案をしたりしています。代表を務めているのは韓国内で有名な教育実践家であるチョン・ギョンホ先生。私たちが訪問した日は、チョン・ギョンホ先生が総合教育や校内暴力、教権の侵害についてお話をしてくださいました。

  • 統合教育

韓国では障害のある子どもが地域の公立学校への入学を希望した際はそのまま入学することができます。一見すると進んだ教育に見えるのですが、実際は教員に知識やスキル不足、人手不足などの影響で、適切な受け入れ環境が整っていない現状があります。それによって、不適切な指導をする教員もいるのだとか。障害のある子どもを含めた学級運営が困難な状況があり、必要な公的サポートがない中で教員任せになることから「本人のためにも分離教育をした方がいい」「統合教育なんていらない」という声が学校現場からあがってしまうことを問題視されていました。

  • 校内暴力 / 教権の侵害

全教組の“追悼集会”というデモでも話題にあがっていた校内暴力予防法と児童虐待処罰法についても詳しくお話を伺いました。校内暴力予防法は、小学生から高校生が対象で、ゼロ・トレランス※の考え方がベースとなっている法律です。暴力行為があった際には事実確認をして加害者と被害者をはっきりさせ、両者を分離するために加害者を転校させます。元々はいじめ対策を目的にできた法律ですが、学校外の暴力行為も対象になったため、きょうだい喧嘩にも教員が介入せざるを得なくなっている現状があるようです。また、両者のより良い関係性を築くために話し合いをしたり、長い目で見守っていったりすることも難しくなっているのだそうです。

※ゼロ・トレランス:軽微な規律違反であっても寛容せず、厳しく罰することで、より重大な違反を未然に防ごうとするもの。1990年代、割れ窓理論に基づいて米国各地で導入され、後に日本にも広がった。(出典:https://kotobank.jp/word/%E3%82%BC%E3%83%AD%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9-881128)

児童虐待処罰法は、家庭内だけではなく、学校内での虐待も対象になっています。児童生徒や保護者から被害申告があった場合は、即座に警察が介入して教員と対象となる児童生徒を分離します。ここでの問題点は、一部の児童生徒や保護者が、気に入らない教員を排除するための手段として使ってしまう現状があること。そのため、教員は児童生徒間の揉め事が起こったときにも介入はせず、スマホでその状況を撮影し、後日保護者に動画を見せながら説明をすることもあると言います。

「安易に分離することやシステマチックに対処することよりも、どのようにより良い関係を築いていくのか学ぶことが大切なのに、それができない現状がある」とチョン・ギョンホ先生は話してくれました。現在は全教組や実践教育教師の会など、6団体が共同で国に対して以下の4つの要望を出しています。

  1. 生徒指導ができる権限を(分別のない虐待通告に振り回されないように)
  2. 授業を深刻なレベルまで妨害する生徒を静止する権限を
  3. 教師の個人の携帯に訴えが来ない仕組みを(管理職の介入を)
  4. 特殊教育が必要な子に専門的サポートを

< 参加者の声 >

保護者からの過剰な要求やクレームに対して、先生たちがどう思っているのかをお聞きできたのは良かったです。決して「保護者が悪い」と思っているわけではなく、システムの問題だと捉えられていました。激しい競争社会の中で、先生も子どもも保護者も孤立してしまって、頼れる人がおらず、その苦しさが「過剰な要求やクレーム」になってしまっている、と考えられているようです。

韓国の歴史を知る「オプショナルツアー」

午後は、オプショナルツアーとして、参加希望者のみで3つの施設見学をしました。

  • 植民地歴史博物館(関東大震災での朝鮮人虐殺の特別展)

植民地主義の清算と東アジアの平和をめざす博物館。「関東大虐殺100年・隠蔽された虐殺、記憶する市民」の特別展を見学してきました。当時の新聞や虐殺の様子が描かれている絵巻物、虐殺を目撃した子どもの感想文や子どもたちのアンケートの結果などが展示されていました。

  • セウォル号事件のメモリアルスペース

ソウル市役所前に、2014年に起こった大型客船セウォル号の沈没事件のメモリアルスペースが設けられています。300人以上の犠牲者のほとんどが高校生だったこの事件。遺族の方が真相究明を求めているものの未だに叶っておらず、真相究明と事故を風化させず再発を防ぐためのボランティア活動が続いています。

  • 梨泰院事故のメモリアルスペース

2022年10月、ハロウィンの日に起きた事故のメモリアルスペース。犠牲になった159人のうち、多くは若者でした。現在も、遺族の方が真相究明を求めています。メモリアルスペースには犠牲者の顔写真が並んでいました。

4日目

平和で暴力ない社会を目指す「PEACE MOMO(平和教育NPO)」

「学び合い」の経験と実践を通じて、より平和でより暴力のない社会をつくることを目指すNPO法人PEACE MOMO。「PEACE」は、参加(Participatory)・対話(Exchange)・芸術‐文化的(Artistic-Cultural)・創造‐批判的 (Creative-Critical)、違う視点からみる(Estranging)の頭文字を取って作られた言葉でもあります。「MOMO」は、ドイツの作家ミヒャエル・エンデの文学作品『モモ』から名付けられており、韓国語で「みんながみんなから学ぶ(모두가 모두에게서 배운다 / moduga moduegeseo baeunda )」という意味も込められています。30代のスタッフが中心となって運営しており、ワークショップ開発やファシリテーター養成等を行っています。

私たちは、「チェックイン」「あやつり人形(ペア)」「あやつり人形(グループ)」「シェアリング」の4つのワークショップを体験しました。今の自分の気持ちや相手の気持ちに意識を向けられるようなワークが多く、楽しみつつも日常の人間関係や社会構造について考えさせられるような時間となりました。

< 参加者の声 >

「平和教育」と聞くと自分とは少し遠い世界のような気がしてしまいますが、今回のワークでは、自分の気持ちに向き合うことからスタートして、そこから徐々に他者のことを考えていきました。平和を作っていくのは「遠くにいる誰か」ではなく、「自分たち」なのだと自然に感じられる時間でした。

まとめ

今回のツアーでは、ソウル市を中心にして、韓国の教育と社会に触れられる学校や施設、団体を訪ねて回りました。韓国は、保守とリベラルの対立が大きい社会でもあり、私たちが見て触れてきたことはそのごく一面です。ですが、やはりお隣の国だけあって(そして日本が植民地にしていた歴史も相まって)、教育の仕組みや文化も抱えている問題も、日本と通じることがたくさんありました。

ツアー中、夜はホテルの近くの食堂やバーに連れ立って出かけ、遅くまで語り合っている参加者の姿も印象的でした。そして、韓国社会を鏡のようにして、自分たちの職場のことや日本の教育や学校のことについてたくさん話をしました。最終日の振り返りの時間には、「日本に戻った後にがんばっていけるだろうか」と不安を口にする人や、「これまでやってきたことはやはり大事なことだと確認できた」と語る人、お互いの思いを聞きながら感極まって泣いてしまう人もいました。日常を離れて、少し客観的に、自分自身や自分の現場のこと、やっていきたいことを見つめ直し、向き合う時間にもなったようでした。


NPO法人School Voice Projectでは、2024年1月には、デンマークへの教育視察ツアーを開催します。森の幼稚園や義務教育学校、フォルケホイスコーレ、ユースセンターなどをめぐる1週間の旅。教職員の方はもちろん、教員を志す学生の方や教育に関心のある方のご参加もお待ちしています!(詳細は以下のリンクから)

新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが2023年5月8日から季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行し、学校現場にも変化が出てきています。

コロナ禍以前に戻したことや、または5類移行後もコロナ禍と同様に続けていることなど、その中には教員がよいと感じるものもあれば、どうなのだろうと感じているなど、さまざまであることが予想されます。

5類移行後の今、教職員のみなさんに学校現場で気になっていることを聞きました。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2023年8月18日(金)〜2023年9月18日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :57件

アンケート結果

設問1 教科の授業やクラス運営に関して

Q1. 教科の授業やクラス運営に関して、コロナ5類移行後の今、気になっていることを教えてください。

マスクを外したがらない児童生徒が多い

授業等ではコロナ前に戻りつつありますが、特に高学年の児童はマスクを取りたがらないです。長年「着けなければならない」とされてきたので、子どもたちの表情が自然な形で見れるまで時間はかかりそう。完全にコロナの影響がなくなるのはまだまだ先のように感じます。【小学校・教員】

マスクをはずさない子どもが増えたことが気になります。表情豊かに表現する力が身についているか気になります。【中学校・教員】

体育の授業で「熱中症予防のため、マスクを外してほしい」と言ってもなかなか外さないため、体育の教員は困っていた。5月の体育祭も、リレーの選手が軒並みマスクをしたまま全力疾走をしていた。夏場は体調が心配になる。【中学校・教員】

コミュニケーションスキルの低下を感じる

会話やコミュニケーションの文化が退行したように感じるのは、個人的な感覚でしょうか? マスクをしていて表情がわからない。密接・密集を咎められていた3年間で、相手の表情や口角、語気を体感してのコミュニケーションが薄らいだように感じます。指導要領は「対話的な学び」と謳っていますが、コロナ禍でそれは形式的、形骸化しているように感じます。【小学校・教員】

子どもたちの中にも対極にいる子がいるなぁと感じます。人と交わることを極端に嫌がり、これまで何も言われることがなかった人間関係の持ち方について戸惑う子どもたちと、距離感が分からず、グッと近づいてしまう子(幼少時代に本来経験することをできなかった)。教師は対極にいる子どもたちをもっと意識して、学級をづくりをしていく必要があるかと思います。【小学校・教員】

感染対策の難しさを感じる

グループ等での協議は今の学びに不可欠ではあるが、感染症の不安が全て払拭されたわけではないので、どの程度までならOKかという判断が難しい。【小学校・校長】

現実的には第9波が来ているにも関わらず世間の意識は「終わった」という感覚で生徒、保護者ともに感染防止の意識が薄れて適切な授業形態がとりにくくなっている。【中学校/高等学校・校長】

オンライン授業への対応が負担

出席停止の生徒に授業配信をするのか、しないのかが話題になっていること。【中学校・教員】

学級閉鎖時に「オンライン配信」の話があがり、不安です。対面授業とは異なる準備が必要ですし、学級閉鎖のときは生徒への連絡対応やふだん積み重ねた仕事、閉鎖以外のクラスの授業などをしており休んでいたわけではありません。これって負担増なのではと思います。【中学校・教員】

リモート授業に対する意識が薄くなってきてしまったので、突如リモート参加の生徒が出た時に、準備、活用に戸惑ってしまっている。【中学校・教員】

コロナ禍で一気にオンライン(リモート学習)学習の環境は整い、オンライン学習が可能になりました。しかし、コロナとか関係なく、「眠たくて学校に行くのが嫌だからオンライン学習をしたい」という子どもが出てきたり、弊害も出てきました。教室でのオンラインと対面授業の併用はやりづらいので、「オンライン学習」の線引き(〜の時はオンライン学習可能、〜の時はオンライン学習は不可)は必要かなと思います。【小学校・教員】

設問2 学校行事に関して

Q2. 学校行事に関して、コロナ5類移行後の今、気になっていることを教えてください。

行事の精選が進んだが、元に戻そうとする動きがある

コロナ禍と「働き方改革」が合わさって、仕事内容や行事の精選が進みました。運動会も半日開催になるなど学校側の負担が減りますが、保護者の方の中には「元の状態」を希望する方もあり、バランスが難しいです。【小学校・教員】

まだ手探り状態。縮小し、児童及び教職員の負担を減らすようにしてきたが、5類移行後は従前の学校行事の内容を望む声が保護者や地域からあがっている。また、コロナ禍では、始業式や終業式をTV放送で行っていたのに、5類移行になり体育館に一同に集めて実施している。教職員自体も一同に集めることに執着しているような気がする。【小学校・副校長】

縮小して問題なく目的を達成できていた運動会(体育祭)や式典が、従来の誇大なものに戻そうとする動きが散見されます。せっかくICTデバイスが普及し、ZOOM等のオンライン会議システムも一般化したというのに、児童生徒・保護者たちと振り返りや対話する時間がないまま、上位下達を続ける気質に疑問を感じています。【中学校/高等学校・教員】

元に戻そうとすることに抗う人。元に戻さないことに抗う人。対極にある考え方ですが、子どもたちの成長や学校の存在価値として精選していくチャンスとしてとらえることが重要かと思いますが、続けるか続けないかという二項対立的な不毛な話し合いにどんなアプローチをすればいいのか悩みは尽きません。【小学校・教員】

行事や授業を「コロナ禍前」に戻す風潮があります。コロナ禍を体験した「知見」(オンラインやGIGA端末、クラウド利用など)を加味した「新しい形」での実施を計画して実行していくべきだと強く思っています。【高等学校・教員】

5類に移行した後も変わっていないことがある

始業式や終業式で安易にオンラインで行っている気もします。暑い時期や寒い時期に集まる必要がなくなったのはいいのですが、集まる良さもあったと思うのですが‥。【中学校・教員】

校外学習の頻度が少ない回数になったまま、コロナ以前に戻らないことに疑問を感じる。【小学校・教員】

設問3 教育活動、学校生活に関して

Q3. その他の教育活動、学校生活に関して、コロナ5類移行後の今、気になっていることを教えてください。

給食での黙食指導を継続している

黙食が基本の給食スタイルでしたが、その方が食べるのが早い、静かで気が休まるなど、教師に都合の良いことがあったため、元のスタイルに戻すことをしない教室があります。会話を楽しみながら食事をすることが、子どもたちの発達に必要であることを知らないからかな?と思ったりします。子どもたちの発達について学ぶ機会がほしいなーと思います。【小学校・教員】

給食時間、他のクラスがまだ黙食を続けていて、自分のクラスでは班で食べさせたいがまだできていない。【小学校・教員】

設問4 働き方や組織運営に関して

Q4. 教職員の働き方や学校組織運営に関して、コロナ5類移行後の今、気になっていることを教えてください。

コロナ禍で進んだ働き方改革が元に戻った

コロナ禍で縮小し、働き方改革も進んでいたのに、オンラインでも良いような会合が復活したり、市が主催する行事が復活したりして、何のために知恵を絞って取り組んできたのか分からないことが多々ある。一同に集まってとか顔を合わせてということに市教委自体執着があると思う。【小学校・副校長】

教委は何でも機械的に、コロナ禍前に戻そうとして、研修等も会場での集合型に。リモート形式で培ったものも活用したら効率的だと思うのですが。【義務教育学校・教頭】

対面回帰になりつつある。オンラインで効率化ができていた部分が、対面や参集へもどりつつあり、それを管理職が指示している点、現場とのギャップが生じつつある。【特別支援学校・教員】

コロナ禍を経験し、今までのやり方に疑問を持つ人は増えたと思う。しかし、実際にやり方を変えたという事例が身の回りでは少ないように感じている。【小学校・教員】

教員の仕事が増えている

行事や学校生活、とりくみが以前のものに戻ってきていますが、教員の若年化で転勤の入れ替わりが多くなり、コロナでブランクが空いた分、「以前はどうしていたか」がわからなくなってきています。それらを再構築したり、コロナ禍がきっかけで追加されたメンタルの健康観察や子どもたちの端末の管理など、コロナ前よりは確実に仕事が増えています。しかし、教員は不足しており、学校は疲弊してきていると思います。【中学校・教員】

設問5 その他、気になっていること

Q5. その他の事柄に関して、コロナ5類移行後の今、気になっていることを教えてください。

感染対策への意識が低下している

教員や児童の表情がわかりにくいということで、マスクを外すよう委員会から指示があり、真っ先に教員が罹患しています。(今も)コロナ以外の疾病、インフルエンザ、溶連菌等、抵抗力体力の低下のせいか、疾病の見本市のような有様です【小学校・教員】

生徒が一気にマスクを外すようになった。今までクラス内で感染症の発生はないが、今後発生したら爆発的に増えるのではないかということが気になっている。【高等学校・教員】

現実に起きていることを正確に見ないで、なんとなく「終わった」という意識が蔓延していること。それをマスコミをはじめとする「世間」が推し進めていること。正確な情報の入手が難しくなっていること。【中学校/高等学校・校長】

子どもたちの成長や発達への影響が心配

低学年の子たちの、不登校とまでいかなくともはっきりした理由のない欠席が増えています。コロナ禍に保育園や幼稚園に通っていた子や家庭では、学校を休むことへの抵抗が下がったのだなと思っています。無理して学校に来ることはないと思い、休んでいいよという気持ちもあるのですが、一方で常に1割以上の子がいない学級もあり、気になっています。【小学校・教員】

コロナ禍の3年間で「学校」に対する子どもたちのスタンスが変わっているように感じる。小学校はすでに半数が「コロナ禍しか知らない世代」で、学校というシステムへの不適応も多くなってきている。もちろんコロナ禍以前からのゆるやかな流れと言う方もいるが、この3年間がもたらした子どもたちへの影響は、丁寧に検証する必要があるのではないかと感じている。【小学校・教員】

コロナで学校の教育は抜本的に変わる!と思ったが、ほとんど何も変わらなかった!休校になったり、マスク着用を義務づけられたりしたツケは今後、今の子どもが大人になった時に必ずまわってくるような懸念がある。【中学校・教員】

まとめ

新型コロナウイルスの位置づけが5類に変更されてから、学校現場ではさまざまな変化があったことが伺えました。その一つが、児童生徒や教職員のコミュニケーション。マスクの着用の義務付けがなくなったことで表情を見ることができるようになり、心理的な距離が縮まった一方で、マスクを外すことへの抵抗感がある児童生徒も少なくないようです。長期間マスクを着用してきたことで、コミュニケーションスキルの低下を心配する声もありました。

また、最も多くあがっていたのが、教育活動や組織運営をコロナ以前にそのまま戻そうとする動きへの懸念でした。地域の住民や保護者から学校行事の復活を望む声があったり、教育的意義を考えずに元に戻そうとする動きがあったりすることで、教員の働き方改革にも影響が出ているようです。さらに、状況によってはオンラインと対面の両方で授業を行ったり、急遽オンライン授業の対応をしたりすることがあり、負担を感じている教員もいることもわかりました。

コロナ禍でストップしていたさまざまな教育活動が再び動き始めた今、児童生徒にとってより良い教育環境を、もう一度考えていく必要があるようです。


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