学校をもっとよくするWebメディア

メガホン – School Voice Project

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こども家庭庁ができたことや、自民党の特命委員会による提言が出たことなどを受け、こども・教育予算をめぐる議論が活発化しています。

2019年時点で、日本の国内総生産(GDP)に占める教育機関への公的支出の割合は2.8%と低く、データのあるOECD加盟37か国中36位(平均4.1%)でした。教育予算全体を増額するべきという声は学校現場からも長年上がっています。一方で、「何から進めていくべきか」という議論も実際には重要になってきます。

今回のアンケートでは、教育予算を増やす場合、「現場の教職員は何に優先的に使ってほしいと考えているのか」を可視化するために、全国の教職員の方の意見を聞きました。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2023年6月5日(月)〜2023年7月10日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :80件

アンケート結果

設問 教育予算を優先的に使うべきはどこ?

Q1. 以下のうち、もっとも優先的に予算措置をして進めてほしいと思うものを選んでお答えください。
Q2. 以下のうち、2番目(設問1で答えた内容の次)に優先的に予算措置をして進めてほしいと思うものを選んでお答えください。
Q3. 以下のうち、3番目(設問2で答えた内容の次)に優先的に予算措置をして進めてほしいと思うものを選んでお答えください。
 ※ 以下、Q4・Q5も同様

教員負担軽減,給与体系の改善,各種手当の改善

少人数学級の推進(1クラスあたりの人数を少なくする)

少人数にすることで、一声かけたい子どもに声がかけられる。困っていることに気づけるのではないかと思う。少人数にして、学年付きの先生もいれば、ゆとりが持てるのではないか。【大阪・小学校・教員】

欧米先進国に比べ圧倒的に1学級あたりの人数上限が多い。子に応じた指導が求められているのに、指導環境は数十年前の一斉指導型主流のときと変わっていないため。【栃木・小学校・教員】

中学校でも30人にして欲しいです。現在の40人を見ている場合、やはり一人一人をよく見るのが難しい実感があります。また、一学年4クラスで構成されている場合、教科担当が見る生徒は160人になり、テスト採点、評価をつけることにも日々追われてしまいます。【千葉・中学校・教員】

1人の教員の持ちコマ(授業)数を少なくする

学習指導要領が改訂され、指導事項や必ずおさえておく事柄がどっと増えたため、それぞれの教科等の準備や後始末が物凄く増えた実感がある。主体的で対話的で深い学びを構築するための準備できる時間的体力的余裕が現場には皆無だから。【島根・小学校・教員】

授業と授業準備、事務作業や行事準備に追われ、子どもと向き合ったり、創意工夫をしたりする時間がなく、教員という仕事の魅力が低下していると思います。【大阪・中学校・教員】

小学校も含め、一コマの準備時間に一コマ分はほしい。週5で7時間と仮定すると35時間の枠があり、会議が最低1コマはある分と考えるとLHRを含めて半数の17コマを上限でちょうどよいのではないか。持ちコマで定数を決めてほしい。【東京・高校・教員】

残業代の完全支給(給特法の廃止)

子どもが長い時間いる以上、勤務時間内に全ての業務が終わることは不可能だから。けれども保護者は当たり前に学校の対応を求めているため、負担に見合う報酬は必要。【島根・小学校・教員】

本来は残業しなくても授業ができる体制になってほしいが、すぐには無理なので、せめて働いた対価の分は残業代が欲しい。【和歌山・小学校・教員】

残業代が支払われる仕組みになってこそ、長時間労働に歯止めがかかると思います。すべての教員が残業なしで働けるように人員配置をした上で、給特法を廃止してください。【埼玉・小学校・学習支援員】

基本給のアップ

現職の給与を上げることをしないと、なり手が減っていく。時間外労働も非常に多い中で、教職員を減らさないために、給与を上げることを第1に。【神奈川・中学校・教員】

教員の人数と質を保ちたいのであれば、相応の対価を支払うべきである。【茨城・特別支援学校・教員】

モチベーションに直結する。人材不足の現状、とりあえずなり手を増やすためには基本給を挙げるのが基本だと思う。【埼玉・中学校・教員】

教職調整額の改善

調整額は月30〜40時間に相当する%に引き上げ。超過分は個別に残業代を認める。管理職のマネジメントが必要。【大阪・高校・教員】

同じ地方公務員でも市役所職員の人気は高い。良い人材が集まっている。教職調整額を改善し人気を高かめ、減少する人材の中から優れた人材の確保をお願いしたい。諸問題の未然防止、早期発見、早期解決が望まれる中、子どもたちと直接接して影響を与える教員は、少しでも優秀な方が良い。一人の優秀な教師は、多くの優秀な人材を育てる。時間がかかる問題なので、少しでも早く改善してほしい。もう手遅れ、破綻している、沈みかけている、等々言われているが、一年でも早く改善してほしい。【茨城・小学校・校長】

学級担任手当の創設

担任の負担は大きい!担任を持つからには、それ相応の対価をもらっても良いと思う。【大阪・中学校・主任/主事】

本意ではないが、職場が壊れている(担任を断る教員が増えている)ため、導入せざるを得ないと考えます。【山口・高校・教員】

部活動手当の改善

一部の教員の情に任せたシステムは、あまりにも時代遅れ。顧問として名前があっても本人任せの今のシステムでは負担が偏る。部活の活動量の差による負担の偏りも考慮に入れたシステムを求める。【兵庫・中学校・教員】

自分の自治体は4時間以上は一律3600円、たとえば引率や試合で8時間かかってもそのままなので、時給500円以下でさらに交通費は自腹です。部活動手当は、せめて労働者の最低賃金と、加えて交通費支給をしてほしいです。【大阪・中学校・教員】

管理職手当の改善

管理職の価値が低すぎる。大変な仕事であるともう少しリスペクトされるべき。【大阪・中学校・教員】

上記以外の手当の改善(主任手当など)

主任など重い仕事を持つ人には相応な手当がないと引き受け損になってしまうから。【東京・義務教育学校・教員】

役職によっての手当ては改善してほしい。現実的に負担がかかる状況から考えて、様々な業務の手当て、役職手当の改善をお願いしたい。警視庁等の手当てなどを参考にしてもらうと、困難な業務でも求人倍率は改善されていくでしょう。【茨城・小学校・校長】

専門職種の新規配置・配置増

スクールサポートスタッフの配置増

教員が背負っている業務があまりに多すぎる。行事のコーディネート専任の職員がいると大変助かる(特に宿泊行事)。【福岡・特別支援学校・教員】

教室に入れない、いわゆる別室対応の生徒が増えている。教師の手が回らない状況が増えてきた。【兵庫・中学校・教員】

部活動支援員の配置増

地域によるかと思いますが、全く部活動の地域移行が進んでいません。指導者を確保できないためだと思います。具体的にどのような手当がでるのか、地域の方に知らせていくことが必要だと思います。【千葉・中学校・教員】

公立の中学校だと、部活動の仕事が多すぎる。休みの日に休めていない。ゆとりのある教育現場を目指すべきである。【大阪・中学校・教員】

教員にとって心理的にも体力的にも最も負担なのは部活動であると考えている。部活動を支援員の方に全てお任せできれば、教員の仕事はだいぶ軽減されると思う。実際、私は今年、部活動の顧問を受け持っていない。それでも、その他の様々な仕事を抱えているため、定時に帰ることはできない。しかし、部活動と違って自分の専門性も生かせるし、工夫次第では早く終わらせることもできる。部活動は、専門性がいかせないことも多く、「ただその場にいるだけ」という、かなり時間を無駄にした仕事になることも多く負担であった。【鹿児島・高校・教員】

スクールソーシャルワーカーの配置増

子どもの抱える課題について、学校側がどうにもできないことが増えています。各校にスクールソーシャルワーカーを配置することによって、福祉面から子どもや家庭を支えるようにしていかなければ、これから先、学校は立ちゆかなくなると思っています。【大阪・小学校・教員】

教員という立場ではこれ以上踏み込めない、という家庭が多い。そういった家庭の多くは、できる限りのアプローチをしてもほとんど変化することなく卒業してそれきりになってしまう。専門家、踏み込める立場の人を増やし、専門的なアプローチで社会に出るための準備ができるようにしてあげたい。子どもにも、保護者にも。それが、教育の大きな下支えになると思います。【埼玉・中学校・教員】

不登校や未納、虐待などについて教員が対応することで余計に関係がこじれてしまうことがある。ワンクッション置くことで踏み込んだ対応をした時の反応が全く変わるということを目の当たりにしたため。今の配置では学校に1〜2ケースほどの対応しかできない。【東京・小学校・主任/主事】

スクールカウンセラーの配置増

本来必置が努力義務のはず。未だに「他の子のことを考えると…」などと「通常教室内での特別支援」に対する理解が浅い教員が多い。臨床心理士がより時間をかけて児童を見とり、きめ細かく助言を与えていけるようにすべき。【東京・小学校・主任/主事】

月に1回しかカウンセラーの先生が来られず、常に予約でいっぱいである。また、教員とは違った立場の専門性をもった方が学校にいらっしゃった方がいいと思う。予算措置をして、常勤(できれば正規雇用)になれば、尚よいと思う。【鹿児島・高校・教員】

事務職員の配置増

今は学校予算の扱いしかやっていないので、私費会計や行事手配、なんなら教務事務のいくつかは教員でなくてもできるので、そういう部分の仕事に予算をあてるべき。【東京・小学校・教員】

他の業種から教員になって本当にびっくりしたことの1つが、「教員が何から何までやっている」ことでした。専門職と言われている職業で、お金の徴収からトイレの修理、ワックスがけまでするのには驚きを通り越して呆れ、それを当然視する他の先生にも、正直引きました。事務処理も実はかなり多いのに、そのことは学校外では余り知られていません。選択肢はいずれも大切だと思いますが、教員が本来する仕事ではないものを可視化する、業務の切り分けをするという意味で、敢えて事務職員の増員を選びました。【愛知・小学校・教員】

ICT支援員の配置増

タブレットの不調やログインまでの対応などで時間をとられて、その間に子どもと関わる時間や他の業務を行う時間が減るので。【大阪・小学校・教員】

GIGAスクール構想のもと、一気にICT機器が学校に導入され、一人1台端末が支給されているが、メンテナンスや故障なども全て教職員が対応している状況である。ICTに関するトラブルの仕事まで増えてしまっているので、ICT支援員が常駐して、担当することが必要と考える。【大阪・中学校・教員】

その他の施策

学校施設や教具・教材等の改善 / 充実

校舎は雨漏り状態、教具はボロボロで数も足りず、教室の机には穴や過去の落書きが残っている状態です。それでも「予算がない」ので、そのまま使います。直ちに人命に関わることではありませんが、そうやって後回しにされ続け、結局何も変わりません。【宮城・小学校・教員】

トイレ、温水の出る水道、エアコン、情報機器、掃除用具や調理器具など、子どもたちの家庭にはあるものが学校にはない。指導しながら不便が多い。エレベーターもなく、怪我をした子や身体障害のある児童が不便でならない現状があるから。【滋賀・小学校・教員】

若手教員支援の充実

人材確保のため。離職を減らすには、教員の支援体制が整うことが優先的に必要だと思う。【大阪・小学校・教員】

新卒でいきなり担任を任すのではなく、副担任のようなポジションからスタート出来るようになれば安心できる。【和歌山・小学校・教員】

私はいわゆる氷河期世代の教師であり、学校で一番少ない年代でありながら学校の中心的な役割を担っています。若手教師へのサポートができる余裕がありません。若手の芽をつぶすことなく、彼らの強みを伸ばしていけるような環境づくりが望まれます。【兵庫・高校・教員

給食費や教材費の無償化など保護者負担の軽減

子どもを産み育てることのハードルの高さは「お金がかかる」点にあると思われる。(各調査を総合して考察すると、ほぼこの点に収束されるのではないか)公立学校でも、給食費、教材費、その他行事等での出費はかなり負担が大きい。水着も体操着も上履きも習字道具も裁縫セットも各教科の指定ノートも、合計すると相当な額になる。子どもたちを、快く学ばせてあげたい。塾に行かせて私立に行かせて、ができる保護者ばかりではない。【埼玉・中学校・教員】

少子化対策で最も大切である、家庭が支払う教育費の軽減が現行では不十分。高等教育も無償に近い制度をつくるべきである。【東京・特別支援学校・教員】

フリースクールなどへの補助

子ども達の選択肢を広げて欲しいです。【静岡・中学校/高校・教員】

学校以外の場所の方が、自分らしく学べる子どもたちは一定数存在する。フリースクールなどでは、学校ではできない個別支援が可能である。学校にいかなくてもいい、ほかにもきちんと学んで成長できる場がある、ということは、多くの親子を安心させることにつながる。複数の選択肢を、子どもに与えてほしい。【埼玉・中学校・教員】

その他

近年、非常勤講師の割合が増えてきていると思いますが、給与面でかなり冷遇されていて、非常勤講師の質の低下が懸念されます。非常勤講師もなり手不足で、高齢化しています。もっと魅力的な待遇にすれば非常勤講師のモチベーションも上がるし、なり手が増えて、学校側が必要だと思う人材を選べるようになると思います。【静岡・中学校/高校・教員】

地方だと1つの研修に行くのもお金がたくさんかかるので、どうしても学びが足りてない先生が多い。【北海道・中学校・教員】

将来を見定めることが難しい現在、ICT教育や国際理解教育など、「○○教育」がどんどん課されていく中で、教師には研修をする余裕がありません。まずは教員研修を充実させて、教師の力量を上げていくことが最優先課題と考えています。【兵庫・高校・教員】

例えばプール。維持に莫大なコストがかかっているけど、プール指導一つなくすだけで、小学校の教員はものすごく楽になります。専科もそうです。プールのせいで補教は増え、時間割はおかしなことになり、夏休みなどのプール指導で、なぜか専科や養護まで指導にかき集められ、本当に負担でしかない。そのプールを外部委託してくれたら本当に楽だと思う。【東京・小学校・教員】

地域人材を生かしたり、外部講師を呼んで授業したいが、お金がなくていつも断念し、その分の時間数を自分で授業準備しないといけなくなるので。【北海道・中学校・教員】

同じ県内でも、PCがクラウド化されている自治体とそうでない場所がある。成績処理や要録作成など、削減できない業務も、作業環境を整えれば場所や時間を選ばず自由にできる。【香川・小学校・教員】

まとめ

23の選択肢(「その他」を含む)を用意し、回答者に優先順位をつけて5つ選択をしてもらいました。最も多く選択されていたのは、「少人数学級の推進」で全体の78%にのぼりました。次いで多かったのは、「1人の教員の持ちコマ(授業)数を少なくする」で76%。3番目以降は大きく数値が下がり、「スクールサポートスタッフの配置増(33%)」「残業代の完全支給(33%)」「学校施設や教具・教材等の改善 / 充実(31%)」「基本給のアップ(28%)」「部活動支援員の配置増(25%)」と続きました。

少人数学級の推進と持ちコマ数の削減は、多くの教員が望んでいることがわかります。その他の項目については、個人によって回答が大きく分かれる結果となりました。校種別に見た際に最も多かったのは、小学校では「1人の教員の持ちコマ(授業)数を少なくする」で、中学校と高校では「少人数学級の推進」でした。

自由記述欄に目を向けると、選択した人が比較的少なかった項目(教員以外の専門職の配増や給与や手当の見直しなど)であっても、決して重要度が低いわけではないことも伺えます。教員だけでは対応しきれない児童生徒や保護者との関わりにおいて、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーなどの存在が不可欠であることや、教員が担っている事務的な仕事を担当する職員の必要性を訴える声が目立ちました。


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教員給与特別措置法(給特法)の議論が活発化しています。

自民党の特命委員会は、先に出した提言の中で、「教師は高度な専門性と裁量性を有する専門職」だとし、給特法の教職調整額を現行の4%から、少なくとも10%以上とすることを打ち出しました。まもなく出される予定の政府の「骨太の方針」に反映させ、予算化を進めたい考えです。

一方で、現職教員の西村祐二さんらからなる有志グループや、立憲民主党などは、教職員の働き方を抜本的に変えるために廃止が必要だと主張しています。

給特法に関して、教職員の方の声を聞きました。

※給特法についての解説記事は下記をご参照ください。

アンケートの概要

■対象  :全国の小〜高校年齢の児童生徒が通う一条校に勤務する教職員
■実施期間:2023年6月5日(月)〜2023年7月10日(月)
■実施方法:インターネット調査(実施時の設問はこちら
■回答数 :111件

アンケート結果

設問1 給特法について、あなたの考えは?

Q1. 給特法について、あなたの考えに最も近いものをお選びください。

「教職調整額を引き上げるのがよい」を選択した方の主な意見

現状は調整額以上に働いていると思うので、10%に引き上げということ自体は歓迎したいと思います。ただ、どの選択肢にすれば良いか大変迷いました。調整額を引き上げたら、その分働けという気運になり、働き方改革の流れが後退するのではないかと強く懸念しているからです。【高等学校・教員】

私の場合、(自分の)子どものこともあるので、残業はほとんどなく休日出勤もしていませんが、家で相当仕事をしています。土日、学校で働くより長時間働くこともあるくらい。毎週ではないものの、土日は3時間くらいは平均で働いてます。残業代を払うということになると、持ち帰りの仕事が本当に無給になり、学校に残れる人だけしか恩恵を受けないことになるので、子育て中で残業できない人は、給料は減る(4%がなくなるとすると)けど仕事は減らないという悪循環が生じると思います。残業代が出るとなると、やはり残業代が欲しくて、今まで以上に残業する人も出ると思います。【小学校・教員】

残業代よりも給特法を上げた方がボーナスによい影響がありそうだからです。能力の高い人は短い時間で成果を出すことができます。残業代は能力がない人に払うことにもなりかねない。でも、10%にするのがもったいない残念な人もいます。メリハリのある給与支払いができるのが理想ですが、そのために管理職が多忙になるのは反対です。【小学校・教頭】

教職調整額の基準が昔の月の超勤が8時間だったころと変わらない点に問題があると感じる。現状の教員の業務量に対する対価として、適切な額が支払われるべきであると考える。ただし、このことと業務量や超勤時間の削減とは別問題なので、そこは別の議論が必要であると考える。【小学校・教員】

学年主任や特別支援コーディネーター、若手の指導者など、役割ごとに調整されるとよいと思う。また、現場は慢性的な人手不足のため、欠員が出ている場合にはその分の負荷がかかっている職員に十分な手当が必要だと感じる。【小学校・教員】

実際には調整額を引き上げても問題は解決しないと思うが、賃金が引き上げられることで教員のイメージは多少上がるのではないかと思う。【中学校/高等学校・教頭】

残業は、やる気のある人ばかりか、効率の悪い人も多くなる。専門性を考えて、教職調整額の引き上げが良いと思う。教職調整額をなくして、残業代を支払うための残業時間をどのように管理するのか想像できない。現状から時間外勤務を20時間にするには、無理がある。時間外勤務上限月45時間、年間360時間を目指していくことを基準に考えると、15%で様子を見たい。100倍近い市役所職員の倍率と2倍を切る教職員の倍率の推移を見ながら、改正を重ねてほしい。子どもたちに直接接していく教員には、より優れた人材を充てていける状況をつくってほしい。【小学校・校長】

「完全に廃止するのがよい」を選択した方の主な意見

調整額を引き上げるのは、「給料上げるから、今後も変わらず働いてくださいね!」としか思えません。完全廃止して時間外勤務分の対価を貰った方がいい。【高等学校・教員】

4%という数値は、昔の状況のもの。完全に廃止し、給料を上げ、労働基準法を適用してほしい。引き上げる=残業ありきになってしまい、健康と安全が守られない。【小学校・教員】

とりあえず「働かせ放題」は廃止し、実態に見合った残業代を支払ってほしいから。給特法ができた頃と今では、学校に求められる理想や教員がする仕事内容が大きく異なっているため、まずは現状を把握してほしい。その上で、適切な人員と賃金を確保してほしい。【高等学校・教員】

結局公立学校教員は定額働かせ放題になることは変わらない。現時点よりも学校が抱える業務が増えることはあっても減ることはなく、時給換算すれば最低賃金を下回る教員もいる現状が変わらないのは明白。また、国立・私立学校教員には時間に応じた残業代があるのに、管轄官庁(都道府県部局)が異なるだけで給与体系が異なるのはいくら現状は特給法があるとはいえ、不平等だと思う。【高等学校/高等専門学校・教員】

教職調整額を引き上げただけでは、長時間労働に歯止めがかからず、教員は疲弊します。労働を労働と認めない給特法は廃止し、教員にも労働基準法を適用してください。このままでは、教員になりたい人がいなくなり、現場で持ちこたえている教員の労働環境は、さらに悪化すると思います。労働環境が改善されれば、一度離職した潜在教員も、また働きたいと思えるようになると思います。1人が抱える業務量を減らすために、人に予算をかけ、全員が残業をしないで業務か遂行できる環境に整えてください。【小学校・職員】

完全に廃止して、民間と同じだけの残業代を時間給で出すべきだ。給特法は時代遅れの法律で、労働基準法に違反している。例えば自分の自治体では休日の部活動手当は6時間で日給4400円と最低賃金以下の時給である。私立校はしっかり残業代が出ているのに、ものすごくおかしく人権侵害であるとすら感じる。【特別支援学校・教員】

給特法の存続自体が定額働かせ放題の容認になる。教職調整額の引き上げは「引き上げたのだから文句を言わずに働け」という風潮を生み、定額働かせ放題の実態は改善しないままになる。抜本的に改善するためには完全廃止しかありえない。部活動の指導などは早急に地域に移行し、指導したい教員は兼業として指導員をすればよい。スポーツ活動や文化活動を社会で維持していくためには地域で運営していく方がより健全で学校に頼るのは間違っている。【高等学校・校長】

10%以上の残業をしている教員が多く、調整額を引き上げても実態にあっていない。調整額が一定のままでは、残業時間を減らそうという意識が生まれてこない。【義務教育学校・教員】

「残業時間の上限を定め、それ以上は残業代を出すのがよい」を選択した方の主な意見

教師の側にも、無駄に仕事をせず、効率よく仕事をして下校する意識改革は必要だと思うから。【中学校・教員】

基本的には、残業代を出すべきです。残業代を出すことになれば、教員の仕事を整理して、勤務時間内に制限するということもようやく真剣に議論されるはずです。勤務時間の管理も含めて、ちゃんと国政で議論されるべきだと思います。【中等教育学校・教員】

現状の教員配置や業務量では残業または持ち帰りがやむおえない場合が多い。現状の教員配置や業務量が変わらないとすると、せめても上限を定めた上で、残業代を支払って欲しい。個人的には家庭の状況で持ち帰り仕事にならざるを得ず、残業にはカウントされない。そのため、合わせて教員配置の見直し(増員)と業務量の削減を行うべきだと考える。【高等学校・教員】

残業の内容を把握するためにも残業申請をし、認められた残業についてはきちんと報酬を支払うことで、どのような業務が残業となってしまっているかを把握し、全体的に勤務環境を整えていくことができるのではないかと思うから。【中学校・職員】

まず残業時間の上限を課すことで、業務の精選を図るという意識を管理職、教職員にも醸成させないと、現状の業務過多は変わらない。業務の申請をして、対価は支払うようにするべきだと思う。【中学校・教員】

残業時間の上限を定めることで、勤務時間外の会議や部活動指導、土日のPTA行事への参加等の時間外労働を見直す動きや、学校行事の縮小等を進める動きが政治家主導で起きることを期待しているため。しかし業務量を減らす改革もセットで進めてくれないと、持ち帰り仕事が増えるだけなので意味がないと思う。ただでさえコロナ禍に縮小した学校行事を完全に元に戻そうとする動きがあるので…。【小学校・教員】

「現状のままでよい」を選択した方の主な意見

義務教育の小さな学校だと、非常勤講師は授業以外の時間勤務は皆無で、教材準備、教材研究はもちろん、評価にかかる時間もボランティアです。その予算をこちらに回して欲しいです。【中学校/高等学校・非常勤講師】

基本給を充実させ、業務時間内に終わるような人員配置をする方が大切と考えるため。【小学校・事務職員】

「その他」を選択した方の主な意見

教職調整額を引き上げても、正当な残業代には届かない教員の方が多い。廃止すると、より一層のやりがい搾取状態となる。残業時間の上限は決められない。部活動ガイドラインと同様、「原則」という言葉が付き、なし崩しになる。とは言え現状のままではいけない。
「児童生徒が教職員管理下の学校敷地内にいていいのは職員の勤務時間内(例外は災害時、指導時のみ)」という決まりさえつくれば、教職調整額が妥当なものに近づく可能性が高い。この決まりを、全国の公立小中学校に徹底させてほしい。願うのはそれだけです。【中学校・教員】

残業は基本的に禁止であることが重要だと思います。また、ヒラの教員の数に対して管理職が少なすぎるため、業務内容を適正に管理することも難しいと思います。高校でいえば停学などで保護者に来てもらう際に18時にしか来れないとなったときなどに、残業代を支給すれば良いと思います。【高等学校・教員】

勤務時間が増えているのは教師がやる内容が増えている、個々の児童への対応が昔と比べより複雑化していることや保護者対応、地域対応が増えているなどが考えられる。ならばそれに見合う対価を出すべき。また、育児や介護で家庭に持ち帰って仕事をしているの方々が多いのだからそれに見合う代価も出すべき。【小学校・副校長】

教員の業務を一律的にとらえると、時間内で雇われている中での業務への対価となるため、根本的に変わらない。授業、教材研究、学級経営、生徒指導、進路指導、校務分掌、試験、評価、指導計画作成、保護者対応、部活動等、それぞれの業務に対して対価を支払うシステムとするべきである。なお、立場によって各業務への責任度は違っているため、学年主任、校務分掌担当、教務主任、など立場による加算が必要である。【特別支援学校・教員】

「わからない」を選択した方の主な意見

教職調整額が今のままでいいか、と聞かれれば「おかしい」と思う。ただ、それが4%から10%に引き上げられたから、現状の業務量をこなし続けるのもおかしいと思う。まずは、教職員の業務量や負担を減らすことを検討するべきであると考える。調整額は、それに応じた金額を検討するべきではないだろうか。【中学校・教員】

残業時間の上限を決めたり、残業代を出したりする動きが強まると、残業代ゆえに「これは教員の仕事ではない」「なぜこんなことに時間を使っているのか」と、それぞれの教員が必要と考えている仕事が強制的に「必要のないもの」と切り捨てられてしまわないか心配です。やはり人を増やし、もっと自由に働ける環境にしてほしいと思っています。とはいえ、給特法があるためにコストなく仕事が増やされ続けている、という指摘はごもっともだとも思います。難しい問題です。【中学校・教員】

今のままでは教員の働きに見合っていないとは思うが、額を上げれば良しとも思わない。そこにお金を使うよりも、現場にもっと人を入れて、一人一人の負担を減らすことが優先されて欲しいと感じる。【小学校・養護教諭】

まとめ

給特法について、「完全に廃止するのがよい」と回答した人は全体の40%と最も多く、次いで「残業時間の上限を定め、それ以上は残業代を出すのがよい(23%)」「教職調整額を引き上げるのがよい(20%)」の順番で多い結果となりました。

年代別に見ると、20代では「完全に廃止するのがよい」と回答した人は約半数にのぼり、50代までは、年代が上がるに連れてその割合が下がっていく傾向が見られました(30代で46%、40代で38%、50代で22%)。また、「完全に廃止するのがよい」と回答したのは男性が52%、女性が28%。「残業時間の上限を定め、それ以上は残業代を出すのがよい」と回答したのは男性が12%、女性が35%と、性別によって回答に差がありました。「残業時間の上限を定め、それ以上は残業代を出すのがよい」もしくは「教職調整額を引き上げるのがよい」と回答した人は全体の約4割にのぼり、さまざまな意見があることもアンケート結果から読み取ることができました。

教職調整額の引き上げを支持する理由は、「現状は教職調整額以上に働いているから」「教員を志望する人が増える可能性があるから」など。教職調整額の引き上げを支持しない理由は、「残業ありきの働き方になりかねないから」「それだけでは長時間労働に歯止めはかからないから」などの意見が上がっていました。

残業代の支給を支持する理由は、「業務の精選を図る意識が管理職や教職員に醸成されるから」「時間外労働を見直す動きや、学校行事の縮小等を進める動きが起こることを期待しているから」など。残業代の支給を支持しない理由は、「持ち帰りの仕事が無給になり、学校に残れる人だけしか恩恵を受けられないから」「残業代が欲しくて今まで以上に残業する人が出る可能性があるから」などの意見が上がっていました。

また、教職調整額の引き上げや残業代の支給以外の案として、「労働基準法の適用」や「役職や業務による給与の調整」などを望む声も。さらに、給与形態の見直しだけではなく、業務量の削減や働き方の改革なども合わせて見直し、一人ひとりの負担を減らすことの重要性を訴える声も多く集まりました。


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すでに公開されている教職員アンケート結果やWEBメディアの記事の内容等は報道の際に使用いただいて構いません。その際は【出典:NPO法人School Voice Project 】クレジットを入れていただき、事後でも結構ですのでご一報ください。

はじめに

タイトルを読んで驚かれた方もいたと思います。私は数年前まで勤務していたとある高校の授業で、

  • 私語をする
  • 授業内容以外のことを行う(内職)
  • スマホやPCを使用する
  • 音楽を聴く
  • 居眠り
  • 教室外に移動する

など、学校の授業では普通禁止されている事項のほとんどを許可する、という実践を行っていました。まさに“自由な授業”と呼べるものだと思っています。

「そんなことをしたら授業が崩壊してしまうのではないか」
「生徒の成績が下がってしまうのではないか」
「この実践は成績上位層(または下位層)だけで通用するのではないか」
「教員の負担が増えてしまう」
「教員と生徒との関係性が崩れてしまう」

…そんな印象をもつ先生方もいらっしゃると思います。
しかし、私がこの授業実践を何年も実際に行うことで得られた結果はまったく逆のものでした。

具体的には、

  • 授業は決して崩壊せず、協働的かつ効果的な学習集団が構成される
  • 成績は向上する。特に、学習意欲が高い層の成績は大きく向上する
  • 教員の負担は通常の授業とほぼ同様
  • 教員と生徒との関係性が向上する

といった現象が、成績上位層のクラスでも下位層のクラスでも起こっていました。ちなみに当時の勤務校は成績上位層クラスは国公立大学や有名私大への進学を希望する生徒が多く、下位層クラスは就職や専門学校進学を希望する生徒が多い状況でしたので、私はこの実践結果は生徒の学力レベルに関わらず同様の結果となるものだと考えています。

ただもちろん、安易に上のような授業実践を行っても、このような結果になることは難しいとも考えています。最大のポイントは「生徒と教員が“学びの在り方”について意見を出し合い、提案と改善をくり返しながら授業スタイルを共に創っていく」こと。“自由な授業”はその過程を経て生まれたものであったからこそ、上述のような成果が得られたのだと私は考えています。

この記事では、私の数年間の実践をもとに「教室の風景」「大事にしていた考え方」「“自由な授業”の効果」「これから実践する方へ」といった内容を紹介していきます。

※ 似たような授業スタイルで『学び合い』や「単元内自由進度」といった有名な取り組みもありますが、この記事で紹介する実践はあくまで「生徒と教員が一緒になって“自由な授業”を構築していく」ことが主眼となっています。そのことから、この記事ではこの授業スタイルを“自由な授業”と表現し、他のスタイルとは別のものと捉えています。

教室の風景

「はじめに」で挙げたような“自由な授業”を実践すると教室の雰囲気はどのようになるのか、その1コマを見てみましょう。(授業の進行方法は生徒の意見に合わせ少しずつ更新していったため、以下の内容はあくまで授業の一例ですが、実際に同様のことが起こっていました)

当時の授業風景。一見普通の授業風景ですが、イヤホンをしている生徒もいるなど、生徒は自分のペース・方法で学習をしています。写真には写っていませんが後方ではグループ学習が行われています。

授業開始・全体への話

授業開始のあいさつが終わると、その日のプリントを配布します。配布するプリントは後述する「“自己規律化”達成シート」と、前回の授業後に生徒が「ほしい」と言ったプリントです。

何もなければプリント配布後すぐにメインの学習時間へと突入しますが、試験範囲や授業進行方法等についての連絡があるときは、この時間に話をします(生徒からの希望があった場合はこの時間に小テストを行ったこともありました)。話はなるべく短く、5分以内に終わらせます。生徒にも「この最初と最後の話だけはしっかり聞いてね」と念を押します。

学習開始

生徒は自分の行いたい学習方法に合わせて各自場所を移動し、それぞれの学習を開始します。当時は一応の目安として、以下のようなゾーン分けをしていました。

① 教室前方
 教員の講義を聞くことで学習したい人のゾーン(基本的にここにいる生徒に向けて授業を行います)

② 教室後方
 グループワーク・話し合いをすることで学習したい人のゾーン(話し声の大きさは前方の授業の声が聞こえる程度に、としていました)

③ その他の場所
 自習等により学習したい人のゾーン(スマホやパソコンを使って学習する際はイヤホンを付けることを必須としていました)

この配置を一応の前提としますが、例外はもちろん出てくるので、その都度生徒の要望を聞き取りながら判断をしていきます(例えば、授業を聞きたいわけではないが板書を撮影したいので教室の前方に居たい、といった生徒には、場所の移動を認めたりしました)。

教員はこの配置の中で、基本的には①の位置の生徒に向けて通常の一斉講義を行い、問題演習など机間指導をするタイミングで②③の生徒に声をかけます。その意味で、授業中の教員の動きは通常の授業とほとんど変わりません。

また、授業中に①~③を切り替えることも許可していました。そうすると「周りでいろんなことをしていると集中できない生徒も出てくるのでは?」との心配の声も聞こえそうですが、「グループで学習してみたけど分からないから先生の話を聞いてみた」という生徒や「先生の話がすぐに理解できたから自習に移った」という生徒が出てきたり、一斉講義の中で“大事なポイント”を説明しているときには教員に注目する生徒が増えるなど、生徒が自分に必要な内容を自力で取捨選択している様子が見られました。私自身、その点は非常に興味深かったです。

実際、この実践を実施していると外部からの訪問者の方の多くは最初に「これは“崩壊”している授業なのでは?」と驚くのですが、10分も見学していると「これも一種の秩序立った“学習の場”なんですね」と納得してくださいます。生徒たちに「この授業“崩壊”しているように見えるらしいよ」と言ったら、生徒から笑いが起こったこともありました。この授業が“崩壊”とはほど遠いものであったことは、生徒の目にはそれくらい明らかだったのだと思います。

ちなみにタイトルにも書いたように、この授業は居眠りも許可していましたが、その場合は③の場所で寝ることを推奨していました。その際、基本的には寝ている生徒は起こさないのですが、「どうしても起こしてほしい人は事前に伝えてね」と生徒に伝えておきました。意外なことに(?)、毎年数名の生徒が「寝ていたら起こしてください」と私に言いに来ていました。そういったことからも分かるように、この授業スタイルを行うにあたっては「○○を許可すると多くの生徒が~~のような(不適切な)行動をとってしまうのでは…?」という疑いを捨て、「生徒は自分で自分に必要なことを理解しているはず」といった前提で、生徒の判断を信じることが大事なのではないかと考えています。

授業終了

席を最初の場所に再度移動します。

最後の5分ほどを使って、「“自己規律化”達成シート」にその日の授業のふり返りを書いていきます。次の授業の際にこのようなプリントがほしい、授業で○○をしてほしいが可能か、といった授業に関する要望もそこに書いてもらいます。

前者のプリント希望については、学校で導入しているプリント作成ソフトで作成できる範囲のものであればすぐに作成、それ以外のプリントの場合は1週間以内に作成する、というようなルールで要望を受け付けていました(中には志望校の過去問を持ってきて「これと似た問題を5年分つくってください」と言ってくる猛者もいました)。

後者の授業の改善要望については、基本的には認める方向で実施していましたが、「授業の進度をもっと遅くしてほしい」のように他の生徒との調整が必要な件については次の授業開始時にクラスで相談するなどのプロセスを取っていました。


以上が、毎回の授業の流れです。

授業後には次の授業の準備に加え、「“自己規律化”達成シート」にコメントを付けたり、要望されたプリントの作成などを行います。これだけ書くとかなりの業務量に思うかもしれませんが、この授業スタイルでは一斉講義のニーズが限定されるため、実際には講義のための準備時間がかなり短縮されます(具体的には、早く終わった生徒に向けての追加課題などの特殊な教材の作成が不要になります)。私はその余剰時間でコメント付けやプリント作成をしていました。

大事にしていた考え方

自分の“学び”は自分で掴む

この授業のルールや実際の様子を紹介してきましたが、その根本となる考え方を1つ挙げるのであれば「自分の“学び”は自分で掴む必要がある」ということでした。

生徒たちにも、事あるごとに次のようなことを伝えていました。

① 人にはそれぞれの“学ぶ目的”がある
将来の目標や“教科を通じて成し遂げたいこと”は人それぞれである

② 人にはそれぞれ、自分に合った“学び方”がある
目で見たものが記憶に残りやすいタイプ(視覚優位)や音で聞いたことが記憶に残りやすいタイプ(聴覚優位)など、人には特性があり、それに従って学ぶことで効率的に学習することができる。
 ※ 実際にタイプ別の勉強法の本を授業中に紹介していました。

③ 人にはそれぞれ“学びたい”と思うタイミングがある
「毎日コツコツ」は一種の理想的な姿ではあるが、実際には学びのペースを常に一定に保つのは難しい。その上で大事なことは、つまずいたり立ち止まったとしても諦めず、自分が『学びたい』と思ったタイミングで確実に学びを掴んでいくことである。

これらを伝えた上で、私が教室の前で行っている授業はあくまで「学習プロセスの一例」であって、生徒たちはそれを参考に留めた上で、「何のために」「どのように」「いつ」学ぶかを最後は自分で決定してほしい、と話していました。

“学びを掴む力”を高めるための取り組み

上述のように「何のために」「どのように」「いつ」学ぶかを最後は自分で決定してほしい、と口では伝えても、それをすぐに実践できる生徒は多くありません。実際、教員が上述のような“自由な授業”を提案しても、その授業スタイルを最初から有意義に活用できない生徒もいます。“自由な授業”の効果を高めるには、生徒の“学びを掴む力”を高めていく必要があるのです。

生徒の“学びを掴む力”を高めるため、私は以下の2つの取り組みを意識的に行っていました。

“自己規律化”達成シート

1つ目の取り組みは「“自己規律化”達成シート」というものです。

これは、私が「“自由な授業”におけるルールとはなんだろう?」と考えた末に作成したシートです。
授業のルールというと、一般的には「私語をしない」「予習を欠かさない」「当てられたら『はい』と返事をする」といったものを想像することが多いと思いますが、それは“自由な授業”で目指すところとは異なります。

そこで私が設定したルールは以下の2つでした。

  • 自分が“達成したいこと”を実現するために、自分に必要なルールを自分でつくること
  • そのルールを達成できるように毎回の授業でふり返りを行うこと

自分で自分のためのルールをつくり、そのルールを守れるようになること。これを実現させるための補助プリントが「“自己規律化”達成シート」です。

このプリントには、上から

  • 自分がこの授業を通じて達成したいこと
  • そのための自分のルール
  • 毎回の授業のふり返り(自分のルールを達成できたかや、目標達成のために教員に依頼したいことなどを記入)
  • ふり返りに対する教員からのコメント

を書く欄があります。

このシートへの記入とコメントのやり取りを通じて、生徒に「“達成したいこと”を意識して授業時間を過ごすこと」「自分にとってのよりよい“学び方”を模索していくこと」を意識的に行ってもらい、生徒の“学びを掴む力”を高めていきました。

実際、このシートには生徒の成長過程が一目瞭然に現れます。

毎回PDCAをしっかりと回しながら自分の学び方を改善していく生徒、最初は「今日は眠かった」と書いていても「やっぱりちゃんとやらないとダメだ」「教科書を2ページ進めた」「楽しくなってきた」と変化していった生徒など、日々自分の目標に向き合いながら学びを掴んでいく過程が如実に見て取れるのです。

当時使用していた「“自己規律化”達成シート」。生徒や授業の状況に合わせ、様々なバージョンのものを作成しました。

「君たちはどうしたい?」

2つ目の取り組みはずばり、日々の授業中の声がけです。

“自由な授業”を行う中で、私は事あるごとに
「君たちはどうしたい?」
という問いを発していました。

この問いは、1年の最初の授業の日にまず発せられます。
「君たちはどうしたい?」と私が聞くと最初は、多くの生徒たちがあっけにとられたような顔をします(それまでにそういう問いを投げられていなかったのでしょうから、ある意味当然ですが)。多くの場合、そこで生徒たちは恐る恐る「友だちと教え合いながらやってもいいですか?」「毎回小テストをやってもらってもいいですか?」など、“先生に怒られなさそう”で遠慮がちな提案をしてきます。最初にそれらを1つずつ認め、次のタイミングにはまた一歩生徒の提案を取り入れていく、というプロセスを経ながら少しずつ授業の自由度を高めていくのです。

そのプロセスの中で、時には教員側からの問題提起も行います。たとえば「この前の授業形式だと◯◯の人にとってはやりにくいのかなと思ったんだけど、どうすればいいかな?」のように、教員側から「一人ひとりの“学ぶ目的”や“学び方”を尊重している」というメッセージを発信していくことで、次のステップへと進んでいきます。

このようなやりとりを繰り返していくと、生徒から「音楽を聴いた方が集中できるので、イヤホンで音楽を聴きながら自習をしてもいいですか?」「今は小テストの内容が全然分からないので、小テスト中に別の基礎問題を解きたいんですが、問題をつくってもらえますか?」「授業の動画をYouTubeにアップしてほしいです」といった“普通は先生に怒られそう”な提案が増えていくのです。

多少逆説的ですが、“自由な授業”をよりよい形で実現させていくために大切なのは、前述のような“自由な授業”を目指しすぎない、ということなのだと思います。「君たちはどうしたい?」という質問を繰り返し、そこで返ってきた反応をもとに少しずつ“自由な授業”に向かって授業改善をしていくことで、生徒に「自分の“学び”は自分で掴む」という考えを伝えていくことが大事なのだと考えています。

このようにすると、もちろん予想外のパターンのこともあります。ある年は、初回から「外に出て自習をしてもいいですか?」と聞いてきた生徒がいました。これは私から見てもかなりの急アクセルな提案でしたが、それを認めたところ(安全管理上の最低限の条件は付けましたが)、数週間でその生徒は「やっぱ捗らない気がします」と教室に戻ってきました。

ほかにも、「先生の授業を普通にやってもらえれば大丈夫です」と半年以上も大きな提案をしなかったクラスや、「先生は教室をうろうろしていてくれるのがいちばん助かります。最初の連絡もプリントなどで配ってください」とほぼ自習監督状態だったクラスなどがありました。このように、“自由な授業”の形式は基本形こそあるものの、生徒集団の性質によって様々な発展形があって良いと思っています。


次のページでは、生徒の学力・非認知能力の向上を含めた「“自由な授業”の効果」と、実践のためのポイントなどをまとめた「これから実践する方へ」を取り上げます。