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〈寄稿〉「学校・先生だけでがんばらないで」 ~学校と外部団体との連携、これからの形

  • 工藤美希
寄稿者プロフィール

工藤 美季(くどう みき):
元教員で、現在は山形でファシリテータ―・教育コンサルタントとして活動中。個人事業のtsunaguでホワイトボード・ミーティング®を中心にしたファシリテーション研修やセミナーを行いつつ、一般社団法人terraの代表理事として「不登校」に関わる支援を中心に子ども、保護者、学校の支援を行う。

教員を退職し、フリースクールで見えてきたこと

現在は日々多くの不登校生と関わっていますが、教員として約30年間子どもと関わってきた中で、「不登校」といわれる子どもとの出会いは実は後半ほんの数名だけでした。それでも教員になりたての頃より何倍も増えている不登校生を目の当たりにし、ニュースになっている数字の増加を体感する30年だった気がします。

私が教員をやめたのは2021年3月。
今の仕事から不登校の子どもたちのために教員を退職したように思われているのですが実は違っていて、2018年から学び始めたファシリテーションをもっとたくさんの子どもたち、先生たち、地域に届けたいということで個人事業設立でした。育児のための短時間勤務の後補充としての非常勤講師、福岡のフリースクールのオンラインコースの手伝いで退職後1年目がスタートしました。

それらの活動を当初は個人事業の中で行っていたのですが、思っていたより市内の不登校数が多いこと、市の適応指導教室(支援センター)につながっている人数が少ないこと、市内にフリースクールがないことなど知り、個人事業から一歩進んだ体制を整えたいと考えるようになりました。

天童市には約130名の不登校がいるといわれています。しかし外部機関につながっている児童生徒は10名に満たない状況でした(この状況は今もあまり変わりません)。子どもが困っているというより、どこにもつながれない、相談できない、学校との毎日の連絡で疲れている保護者がいました。現在も「どこに相談したらいいのかわからなくて……」と相談に来られる方がいます。

一般社団法人Terraの設立

上記のような課題から、フリースクールのような子どもの居場所の提供だけでなく、支援学級の増加、保護者の相談場所などを学校の外からサポートする仕組みを作っていく必要があるのではと考えて設立したのが一般社団法人terraです。

現在terraで行なっている事業は下記の4つです。

  • フルイドスクールterra
    フレキシブルな学びの場として、登校日、参加するプログラムを自分で選ぶスクール。体験型のプログラムを月に5回ほど現在は行っています。単発の利用も可能で学校との並行利用も可能です。
  • terra+
    放課後の学びの時間として、コミュニケーションや気持ちの学習、マイクラを使ったプログラミングなどを開催しています。
  • 保護者相談
    予約制の相談事業です。約1時間じっくり話をお聞きし、一緒に次の一歩を考えます。必要に応じて委員会や学校との連携を行います。また、月に一度「親terra」として不登校親の会を開催しています。
  • terra-koya for teachers
    月に一度「terra塾」として先生方のサードプレイスを開催。他に個人セッションとして伴走型のサポートを実施しています。

この4つを柱に事業を行い、まもなく2年になります。

不登校の家庭への電話や家庭訪問、保護者の声は?

現在terraを利用しているのは主に小学生で学校に時々顔をだしたり、担任の先生と定期的に会っていたりするお子さんが中心ですが、全く学校に行かないというお子さんもいます。スクール利用の保護者の方とは定期的に面談の形でお話をする時間をとっています。個別に相談にくる内容では発達障害にかかわる学校との面談やお子さんへの支援についてが多いです。親同士がつながる場としては親terraがあるのですが、現在terraで取り組んでいる「こどもまん中社会へのアクション」としての子どもの権利の勉強会などでの繋がりも生まれています。

その中の1つ、「親の会」では、私自身も耳が痛くなるような声も上がってきます。
基本は親も先生も子どもの成長を願っているのですが、親の会ではやはり学校の対応への苦しさの声が聴かれます。

「親の会」の様子

私も現職時代は、欠席しがちな児童が休むとまず電話、そして家庭訪問という流れを何度となく繰り返していました。電話の向こうでとても申し訳なさそうに謝る保護者の声を聞いたとき「この電話は本当に必要なのだろうか」と思い悩むこともしばしば。そんな疑問を持ちながらも学校の対応のマニュアルに沿って毎朝電話をし、家庭訪問をし、保護者面談をする日々でした。当時の自分の気持ちを思い出してみると、「教室にクラスの子がみんないることが当たり前」ということを疑いもせず「理由なく休むことへの不安」が大きかったように思います。

とにかく学校に来て授業を受けてもらうために「まずは学校に連れてきてください」と車に乗せ、登校後は教室までみんなで誘導する……、など、いろんなことをしてきました。当時は「当たり前」「仕方ない」と思って行ってきたこれらのことですが、それが保護者にとって、そして本人にとってどうだったのか問い返す日々です。

「電話が鳴るたびに心臓が止まる思いだった」
「給食を止めたいといったら、もし学校に来た時食べれなくなりますと言われて止めなかったけど、結局1年間一食も食べなかった」
「『欠席が30日になると不登校になります』と言われ何が何でも学校に連れて行かないとと泣き叫ぶ子を引っ張っていきながら苦しかった……」

「親の会」で保護者の話を聞いていると、教員と保護者はそれぞれ「子どものため」に動いているはずなのにどこかでずれが生じ、大きな溝になっている場合があることが感じられます。保護者も我が子に学校に行ってほしいと思うから、まずはなんとかして学校に行かせなくては。みんなと同じように勉強に……と学校に向かうように働きかけます。それでも思うように動かない。そんな苦しみを抱えて過ごしています。

そんなとき、「◯◯してほしい」という保護者や本人の思いと「◯◯しなければ」という学校の思いはなかなか噛み合いません。上記で紹介した給食の件をはじめ、連絡の方法や卒業アルバムのことなど、そういった例はたくさんありますどのような場合でも、「本人がどうしたいか」が抜け落ち、周りの大人がよかれとおもうことをあれこれ画策しているように見えます。

では、どんな風に噛み合わせていったらいいのでしょう。そういったずれは不登校だけでなく、相談で多い「発達障害」にかかわる内容でも同じです。

保護者相談はスクール利用の保護者の方だけでなく発達障害の診断を受けて相談や担任との面談に向けての相談など様々です。話を伺っているとおそらく先生も悩んでいるだろうと感じることがたくさんあり、何件かは教育委員会や管理職と共有し一緒に支援を考えているケースもあります。

フルイドスクールterraとterra+

保護者むけの事業を中心に紹介してきましたが、活動のメインはやはり子どもの居場所。フルイドスクールterraは学校と家庭の中間地点のイメージです。現在週2コース、週3コースそして単発利用(回数券)で利用ができます。

「不登校だからフリースクール」といったイメージではなく、学校や他の施設、自宅、そしてterraから自分で過ごす場所を選びフレキシブルに学びや体験を楽しんでほしい。そんな願いを込めて「フルイド(流動・流体)」という名称を使っています。

現在は体験型のワークショップのようなプログラム(お灸、お花、ヨガなど)や、自分たちで計画を立てて実行する電車でおでかけ、おひるごはん作りなどを行っているほか、さくらんぼの時期にはサクランボの仕分けやパック詰めなどを仕事として大人の人と一緒に行います(その様子はさくらんぼプロジェクトとしてインスタやHPで紹介しているのでぜひご覧ください)。また、最近ではイベントごとのチラシも子どもたち自身が作成しています。

子どもたちの作成したチラシ

プログラムへの参加も基本自由。自己選択・自己決定を基本にしています。昨年度からは市の適応指導教室(アウタースクール)の利用者の方もプログラムに参加できるように連携しています。理想は、学校の授業とterraプログラムと自由に行き来しながら受講できるようになることです(なるかな……)。

スポーツクラブで自分の受けたいプログラムを受けるように、カルチャークラブをはしごするように、学校の学びとterraでの学びが流動的につながっていったら、「ちょっとしんどい」が楽になるのではないでしょうか。

「頑張って登校させる」こと

私自身も現職時代「担任が何とかしなきゃ」「まずは担任が家庭訪問して、面談して」と抱え込んでいきました。「とにかく学校に連れてきてください」と保護者に伝え、学校の中でなんとかする……。そんなふうに「頑張って登校させること」を一生懸命行ってきたつもりでした。

しかし、中学卒業間近のスクール生と雑談をしていたときのこと。話の流れでスクールのことを知ったきっかけを聞いてみたところ、その子は中学1年の秋から学校に行かなくなり、その年の冬にはフリースクールや適応指導教室のことを知っていたとのことでした。でもその頃はもう引きこもりたく、人に会いたくない、そんな状況だったと。結局、それから1年たった中学2年の年明けからやっと動き始めることができたとのこと。「小学校のときは頑張って行っていたけど中学でエネルギーがきれた」という本人の言葉が印象的でした。

この話を聞いたとき、自分が頑張って登校させた結果、中学でのエネルギー切れを生み出していたかもしれない……。そんなことを考えました。

先生方は外部リソースの活用を

いま私が活動を通して思っていることは、「先生が一人で抱え込む必要はなく、もっと肩の力を抜いていい」ということです。無責任でなく周りの施設や関係者にゆだねる。そんな時期もあっていいと思っています。

「多様性」「インクルーシブ」などの言葉をよく耳にします。その言葉によって学校に行かないこと、障害のある子どもたちがしかたないと切り分けられるのではなく、ポジティブに共に前に進むことができる。そんな社会になった時「不登校」という言葉がなくなっていくのではないでしょうか。

そのためには、学校が担任が一人で悩み抱えるのではなく、外部リソースをもっと活用していいと思うのです。学校の外には連携のポイントはすでにたくさん生まれています。「共に」支える仲間でいきましょう。

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工藤美希

一般社団法人tsunagu代表理事(2022年10月設立)。 ホワイトボード・ミーティング®︎認定講師、不登校訪問支援カウンセラー、楽つみ木特命大使、ファシリテーター、free school terra、terra-koya for teachersなど。 約30年、小学校教員、特別支援教育として公立学校勤務。現在はファシリテーション研修や、学校の外から多方面にわたり子どもの学びと居場所を支える活動を広げています。

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