〈座談会〉子どもも大人もしあわせな学校をつくるには ――先生×生徒で立場を超えて対話してみた
教職員×学生・生徒で、立場を越えて語り合ってみよう!
2024年7月24日に座談会「 子どもも大人も幸せな学校をつくるには?」がオンライン開催されました。座談会には学生団体・ミライエコールの3人とSchool Voice Projectのメンバーが参加。教職員など、学校教育に関心のある人約30人もオブザーバーとして耳を傾けました。先生から意見を聞いてもらえない学生・生徒、忙しすぎて余裕のない教職員、がんじがらめのルール……。学校生活のつらさを「幸せ」に変える方法は、どこにあるのでしょうか。
ミライエコールとは?
ミライエコールは、東京大学の学生を中心とした学生団体で、中高生がよりいきいきとした学校生活を送れるように、生徒が学校生活に関する自分の意見や思いをより言いやすい環境を目指しています。現在は、ウェブメディアへの教育に関する記事の掲載、学校生活の実態を把握するためのアンケート調査事業、生徒の主体性等に関するイベント運営などの活動を行っています。詳しくはウェブサイトをご覧ください。https://mirai-ecole.com
NPO法人School Voice Projectとは?
「学校現場の声を見える化し、対話の文化をつくる」をミッションに、100名を越える現職・元教職員メンバーの参画によってスタート。一人ひとりの教職員が日々働きながら感じ考えていること=「学校現場の声」を見える化し、課題解決へとつなげるための組みとして、WEBアンケートサイト「フキダシ」・WEBメディア「メガホン」・教職員のオンラインコミュニティ「エンタク」の運営、さらに政策提言・ロビイング活動に取り組んでいます。 https://school-voice-pj.org
参加者
学生・生徒
山口 世夏(やまぐちせな):
東京大学文学部3年。小中高と、学校の理不尽なルールや出来事について、他の生徒や先生に意見を伝えた上で、話し合いをするようにしてきた。特に高校では、生徒会長として学校の風通しの悪い制度や雰囲気を変えようと活動した。そのときの体験がきっかけで、大学の同級生らとともに、学校で生徒が自分の思いや意見を言いやすくなることを目指して、学生団体ミライエコールを立ち上げ、現在活動中。
伊藤 亜優美(いとう あゆみ):
早稲田大学教育学部1年。中学時代、校則への意見や不満を学校へ訴えにくい雰囲気に疑問を抱いたことがきっかけで学校制度に興味を持つように。高校では校則について考える中学生向けの授業の企画運営に携わる。現在は大学で教育制度や生涯教育、社会教育など広く勉強中!
可知 櫂(かちかい):
慶應義塾志木高等学校2年生。生徒会本部に所属し、学内での活動とともに外務役員として対外交流を実施。その際、生徒と先生との意見の乖離を問題視し、現状の打開のため学外の学生団体に所属。現在も活動中。
日本中高生協議会代表。生徒会活動振興会準会員。
教員
逸見 峻介(へんみ しゅんすけ):
埼玉県公立高校教員。2022年度には生徒指導部主任として、民主的で対話的な組織を目指して改革を行い、「生徒支援部」へと改称する。ワークショップデザイナー・NPO法人School Voice Project理事・みんなのルールメイキングプロジェクト教員アンバサダー。「人間っていいな!面白いな!」と思える人を増やすため、日々必死に生きている。
主催:対話の場 Open Education など。
大野 睦仁(おおの むつひと):
音楽なしでは生きられない札幌市内の公立学校に勤務する教諭。ココに通う子どもたちと、ココで働く先生たちと一緒に、「学習者主体の教室づくり/対話を通した職場づくり/内省を生かす自分づくり」を模索中。
「教師力BRUSH-UPセミナー」代表/札幌市近郊サークル「Go-Ahead」代表。
司会:武田緑(NPO法人School Voice Project理事)
学校って窮屈……
山口:私は高校のときの経験がきっかけとなってミライエコールを設立しました。まずはその体験談をお話します。
入学当初から服装についての校則に疑問を感じ、ルールを変えるために生徒会に入りました。でも、役員間の話し合いは平行線で話が進みません。2年生の時に会長になることを決めましたが、他の役員や生徒会の顧問から立候補を止められました。
あまり学校生活について自分の意見を言う人がいない高校で、おそらく何かを変えること自体への抵抗感があったのではないかと思います。私は校長先生に訴え、立候補して会長になりました。全校生徒を対象に服装規定についてのアンケートを取ろうしましたが、先生や他の役員の反対にあいました。その後、やっとのことで意見書を職員会議に提出しました。後日になって、職員会議の日に「生徒会長は権力を乱用している」などと書かれた書類が、生徒指導部長から先生たち全員に配られていたことを知りました。
大学生になって一連の体験を周りの友だちに話したところ「自分たちで何かできるかも」という話になったのです。
伊藤:校則については、私も理不尽に感じました。
私立の中高一貫校に通っていたときのことですが、例えば人の名前を呼ぶときは名字に「くん」か「さん」付けにするとか、お店の立ち寄りについて場所や時間の制限があるといったルールがありました。先生からの評価を生徒が気にしていて発言することが難しく、窮屈に感じました。
私はその雰囲気に耐えられず、高校1年生のときに通信制高校に転校しました。そういった経験から生徒が安心して意見を言えるようにする必要があると感じ、ミライエコールで活動しています。
可知:僕は埼玉県の私立高校の2年生で、生徒会に入っています。
「大学みたい」と言われる学校で、例えば1時間目の授業の先生が出張になるとその授業が休講になります。朝、掲示板を見て「1、2、3限が休講」となると学校に来た意味がなくなってしまいます。僕はデジタル掲示板の作成を企画しましたが、却下されてしまいました。理由は「伝統だから」という一言。
ちょうどその頃から生徒会で学校間交流などの外部活動を始めていました。他校にも自分たち同様の悩みがあると気づき、学生自ら活動できる環境を整えていきたいと思いました。
逸見:私は埼玉の県立高校で教員をしているのですが、2年前に生徒指導主任をやっていて、生徒指導部から生徒支援部へと名前を変えました。教員も生徒も、自分の声を出すことは難しいだろうなと思うことがあります。何かを変えるための提案について、プロセスを民主的に進めていくことができていない人も、方法を知らない人もいる。これは構造的な問題で、根が深いと思います。
司会:生徒指導や生徒会などで話し合って決めたことも、職員会議全体とか管理職の先生から「それは無理です」と言われて終わり、といった話も聞きます。
大野:「子どもと大人が幸せな学校」の実現を目指して頑張っていても、道のりは遠いなと思うことがあります。でも大事なことは、その間にも子どもたちは毎日学校に行っているということです。大きな未来や遠い未来も考えつつ、近い未来も考えていく必要がある。小さな前進を実感できたり、共有できていく余裕が教室にも職員室にもあるといいんじゃないかと思う。具体的に言えば、先生方は春休みが1年間で一番忙しい時期なんですよね。その期間を少し長くすることによって余裕を持って子どもたちと向き合えると考えています。
先生の中でも分断が?
山口:例えば生徒から意見が出た場合、先生たちの中でどのぐらい共有されるかが気になります。
逸見:口頭での意見だと伝言ゲームになり、結局変換されたりするんですよ。でも書面の場合だと記録に残るので、話題になる確率は上がると思います。
司会:普段から大人が生徒の声に対応していれば、書面を提出して訴えるといったことも必要ないかもしれないですよね。日常のコミュニケーションがないから、何かが出てきたときに対立・対決モードになるのかもしれません。
大野:札幌の小学校は保護者のアンケートを年に2回とっていて、教員全員が必ず保護者全員のアンケート結果を見ます。教員も年に2回意見集約があり、全員分の要望などが全員に共有されるんですね。だから誰かに言ったら止められちゃうとかいうことは、基本的にはないと思います。児童についても年2回の面談日が設定されています。
あと毎朝、何か言いたいことがある人が誰かと話せるチェックアプリもあります。担任に話したくないことは、担任以外の先生と話をしたいというところにチェックをすると、その日のうちに関われる。全体よりも1人1人の思いを吸い上げる流れになっているような気がします。
伊藤:先生の中でも生徒に寄り添いたいとか変えたいっていう先生と、変えたくないっていう先生で分断があるのかなと感じます。
大野:分断はありますよね、間違いなく。教員の仕事をしていると方向転換の難しさが本当にわかるので、そこにしがみつく気持ちも分からなくもない。そういう人たちは職場の中でもある程度年齢が上になっていて、発言権がある場合もある。なかなかその分断の溝を取り除くのは難しい。
どうしたら変えていける?
山口:札幌市の学校は制度的な面で進んでいるという印象を受けました。それができる学校とできない学校の違いはなんなんだろう、どうしたら変えていけるのだろうと思います。
逸見:例えば「近くの学校はこう変わったらしいですよ」とかいうと「そうなんだ、うちも見直さないとね」となることがあるんです。
私は何かを変えたいときには、同期に一斉にLINEして「どうなってる?」って聞いています。SNSを使って情報を受け取る・発信する・調べるとか、探究的なスキルがあると、変わっていく可能性があると思います。
大野:まず、こういう会を通してつながりを得ることはやっていけることの1つ。あとは「◯◯さんがそこまで言うなら仕方ない」って周りの先生が思うぐらい仕事をするとか、普段から人間関係にめちゃくちゃ気を遣ったりとか、めっちゃ泥臭いことをやっていくしかないんですよね、残念ながら。
反対する人がいたら、懇親会でわざわざその人のそばに行って懐に入るような話をするとか……そういう一面も持ってやっていかないとなかなか幸せな環境にはなっていかないと思います。
可知:全国的に「変えよう」という意識を普及させていかないと、いい意味での同調圧力というか「周りがやってるから、僕たちもやろう」とはならないと思います。
伊藤:私立の学校ってよそはよそ、うちはうちみたいな思考を持っている人が多いと感じます。トップの人の意識を変えることが大事なのかなと思いました。
山口:私は、まずは問題提起をすることだと思っています。問題を問題だと思われていない現状があるので、それを示すためにも調査事業で数で示すことは必要。そうじゃないと極端に言えば「気のせいじゃない?」みたいに片付けられちゃうと思うんですよね。
今困っている人を助けたくて発信したものが、多くの人に刺さることがある。必ずしも学校教育全体を俯瞰する問題意識を持っていなくても、今困っている生徒や先生方に発信が届くようにすることで自然と連帯が生まれるのかなと考えました。
座談会を終えて
逸見:先生たちにも、生徒のことをすごく思ってやっている人はいます。だからあまり「先生たちは」ってくくらないでほしいなってちょっと思います。生徒にもすごい人たちがいっぱいいるから、われわれも力を借りた方がいいと思いました。
大野:それぞれの地域でもっと年齢を問わず「こんなことに困ってるんだよね」と話せる場を作れたらいいな。そして今日対話した学生の方のような人材がもっともっと増えれば、本当に学校は変わっていくんじゃないかなと強く思える時間になりました。
伊藤:校則を変えるという一つのイベントで先生と生徒が協力するとか、対話をするということをすれば、どちらにとってもメリットがあるのではないかと思いました。学校の抱える課題を解決することが、ネガティブな印象から少しポジティブな印象になりました。
可知:やっぱり感想で一番に出てくるのは「難しいな」というところです。そこをどうやって攻略していくかがこれからの未来に対してすごく大事なことになってくる。だから、こういう活動を諦めずに続けていこうと思いました。
山口:学校で自分の意見をはっきりと言う人は今の時点では少数派かもしれませんが、全国でかき集めることによって心強くなれると思います。今、学校生活を送っている中高生や、大変な思いをしている先生方に活動を届けていけたらなと思いました。
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三浦順子