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【解説記事】教職員組合って何?-意義・役割・課題等をまとめて解説-

  • 能澤英樹

はじめに

学校現場に勤める教職員の皆さんの中には、教職員組合の存在を「遠い」「知らない」と認識している人は少なくないでしょう。

私は6年間、学校現場を離れ、教職員組合の役員として勤めた経験がありますが、その私でさえ、普段の勤務の中で、教職員組合を意識することはそれほどありません。しかし、教職員組合が果たしている役割にはとても大切なものがあります。この記事では、その意義・役割・課題などをまとめて解説します。

1.組合(労働組合)とは?

(1)「組合」とは共助の団体

そもそも組合(労働組合)とは、何でしょう。それは困った時の助け合いの組織です。例えば、水害で自分の家が浸水してしまったとします。そんなとき、自分の力で泥をかき出したり掃除をしたりして乗り切ることを「自助」と言います。自助が追いつかないような場合、消防や自衛隊など公的な機関による支援である「公助」を受けることもあります。しかし、自助や公助ではカバーしきれない問題もあります。そんな時に大きな力になるのが例えば、近所同士の自主的な助け合いやあらかじめ組織された互助会、駆けつけたボランティアによる支援などです。これを「共助」といいます。労働組合とは、労働者が共助を組織的に行うための団体です。

(2)見えないけど大切な役割

労働組合は普段は見えませんが、社会の中で大切な役割をもっています。労働者と使用者の力関係は、当然、使用者の側が上になります。使用者が、給料や雇用条件、労働条件を勝手に決めてしまうと、労働者は安心して働くことができなくなります。ですが、労働組合を作ることで、労働者は使用者側と対等の立場で交渉を行うことができます。それは、法規で定められた労働者の権利です。

ちなみに労働者が労働組合を作ってもいいと定めた法規は何か知っていますか。そう日本国憲法です。憲法第28条で「勤労者の団結する権利および団体交渉その他団体行動をする権利は、これを保障する。」と規定されています。この根底には憲法13条の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」、25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」があります。働く者が過酷な労働環境や低賃金に苦しむことのないように力を合わせて声を上げるための制度を保障しているのです。

(3)労働組合の難しさ

一方、日本国憲法は12条で「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。」と定めています。働く者が団結し、使用者側に声を届けなければ、給料を守ったり、労働環境を改善したりすることはできません。ただ、労働組合を結成するためには多大な手続きが必要なので、次々と生まれる企業に対して結成が追いついていないのが現状です。労働組合のない企業では、労働者が厳しい環境に追い込まれることも少なくなく、「組合がある企業がうらやましい」という声が聞かれます。

もちろん、よいことばかりではありません。労働組合を結成すれば、運営のための資金が必要になりますから、組合員になると一定の組合費の支払いが発生します。また活動を前進させるには、中心となって働く役員が必要です。役員にならなくても、組合員として組合活動に時間や労力を取られることもあります。また多くの労働組合は、自身の発言力を高めるために政治との結びつきを重視します。特定の政党を支援し、国会議員、地方議会議員を輩出するため選挙運動に参加します。組合員が動員されることもあります。

労働組合には大きく「ユニオンショップ」(全員加入制)と「オープンショップ」(自由加入制)があり、企業によって異なります。オープンショップ(自由加入制)の企業のもとでは、組合が勝ち取った給料や労働条件が組合員でない社員にも反映されます。「組合に入らなくても権利が与えられるならそちらの方がいい」と考える「フリーライダー(ただ乗り)」が生まれてしまい、加入している人からすれば釈然としない気持ちになります。

労働組合の努力によって改善された給料や労働環境は、労働組合のない企業にも波及し、社会全体の生活の向上に寄与しているのは間違いありません。一方で、組織率は年々低下し、憲法が保障する団結権が社会の中で十分に活かされていないのは悩ましい問題です。

2.教職員組合とは?

(1)労働組合との違い

前置きが長くなりましたが、ここからが教職員組合の説明になります。

基本的に公務員は労働組合法が適用除外になり、労働組合を結成することはできません。その代わりに地方公務員法第52条第3項に「職員は、職員団体を結成し、若しくは結成せず、又はこれに加入し、若しくは加入しないことができる。」と規定されています。条文から分かるように職員団体はオープンショップ(自由加入制)となります。また、職員団体には、いわゆる労働三権のうち、団結権と交渉権は認められているものの争議権(ストライキ権)は認められていません。また交渉権はあるものの、団体協約を締結する権利も与えられていません。しかし、教職員の賃金が決定されるプロセスの中で、その実権をもつ教育委員会との交渉権をもつのは教職員組合だけです。働く環境を改善するために、教職員の声を集め、交渉によって様々な条件を変えられるのも教職員組合だけなのです。

※なお、他国では教員のストライキ権が認められている国の方が多いと言われています。例えば、アメリカ、イギリス、カナダ、フランス、ドイツ、デンマークなどです。一方、日本同様、ストライキ権が認められていない国としては、中国、シンガポールなどがあります。

(2)教職員組合の活動や成果

教職員組合は戦後80年近くの歴史の中でさまざまな成果を上げてきました。詳細はここには書ききれませんが、分かりやすいところでは、産前・産後休暇、育児休暇の期間を広げ、出産、育児に関するたくさんの制度を獲得してきました。小学校の35人学級も、長年の教職員組合の訴えが実現したものです。これらの制度改正の裏側には輩出した国会議員・地方議会議員の活躍があります。現在、学校教育の大きな問題になっている教職員の長時間労働についても、教職員組合が国会議員との連携の中で、社会問題化し、「給特法」を改正することによって、月45時間、年間360時間の超過勤務時間の上限を法に位置づけるに至りました。

また、自主的な教育研究活動を長年続けていることも教職員組合の特徴です。そこでは子どもを中心に据えた、ゆたかな学びが追求されています。この「子ども中心」の考え方は、組合活動全体にも見られ、少人数学級の推進を訴えていることも、子どもたちや学校を競争に駆り立てる全国学力・学習状況調査に反対していることも、子どもたちにゆとりあるゆたかな教育を実現したいという願いがあるからに他なりません。

もちろん、他の労働組合と同様に、個々の組合員と管理職・教育委員会の間に発生するハラスメント、公務災害、権利行使などのトラブルの解決に向けて仲介や支援をしています。ただ、残念なことに、これら教職員組合の活動や成果は、多忙な学校現場では、あまり知られることがありません。

(3)先生の給料が守られる仕組み

組合が教職員の給料を守っていることもあまり知られていません。教職員の給料は、毎年、各都道府県の人事委員会が民間との均衡を見ながら勧告を出し、教育委員会と教職員組合の交渉を通して確定されていきます。その民間の給料は各企業の使用者と労働組合の交渉を通して決定していきます。「春闘」と言って、全国の労働組合が結束して、横並びで「A社は◯円上げたからウチも◯円上げよ」というように賃上げ交渉をすすめます。その結果が、最終的に公務員の給料にも反映されていくのです。教職員組合は、人事委員会や教育委員会に対して、民間との均衡だけでなく、教職員の働く実態が賃金に反映されるよう交渉します。最終的に12月の議会で確定した賃金は、4月に遡って支払われます。毎年、12月の終わりに給料やボーナスとは別に数万円から十数万円ほどの「差額支給」があるのは、労働組合全体の賃上げ交渉の成果です。また、自治体によっては、財政事情により、給料のカットを行う場合もありますが、教職員組合や自治体の職員団体は強く反対し、もし下げられる場合でも、何らかの交換条件を引き出そうと粘り強く交渉します。

3.教職員組合を取り巻く課題

教職員組合への加入率は年々、低下しています。それは「組合費や活動などの負担がある」「加入しなくても給料や権利は守られる」「組合が何をしているのか見えづらい」ことが原因であることは、ここまでで説明してきたとおりです。日本国憲法が保障する団結権を教職員自らが放棄してしまう現状はとても残念です。

それ以上に、私は、人と人が支え合う風土そのものが日本全体で崩れ始めているのではないかと危惧しています。「何かあっても自分で何とかすればいい」「自己責任でいい」「誰かと守り合うなんてわずらわしい」という考え方が生み出す社会は、弱者やマイノリティーには厳しいです。「もしかしたらいつか自分も」という不安と隣り合わせでは、決して成熟した社会とは言えません。「助けて」という言葉を誰もが遠慮なく言える共助の社会を守る一端を教職員組合を含む労働組合全体が担っていることをぜひ理解していただきたいと思います。

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能澤英樹

1964年生まれ。1989年から富山県魚津市の小学校に27年間勤務。2016年から6年間、富山県教職員組合で書記長・執行委員長を勤める。その間、中学校教員の過労死認定を支援し、教員の長時間労働について記者会見等で問題提起を続けた。2022年から魚津市立よつば小学校に勤務。2023年、学校の働き方改革と子どもたちの幸せの両立を模索した著書『先生2.0:日本型「新」学校教育をつくる』(さくら社)を発刊。NPO法人School Voice Project理事。

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