【解説記事】スクールソーシャルワーカー(SSW)とは?仕事内容や大切にする視点を紹介
今年、子ども家庭庁が設立されたことで、ますます注目が集まるスクールソーシャルワーカー(以下:SSWと表記)。学校で働く、福祉の専門職です。
大学等で社会福祉を学び、社会福祉士や精神保健福祉士を取得して雇用されます。最近は、SSWの養成課程等を持っている大学もあり、社会福祉士を志す学生の一つの進路としても、関心が高まっています。『スクールソーシャルワーカー実務テキスト』 には、『貧困家庭、社会的養護、不登校、いじめ、虐待など、子どもたちが抱える課題の多くが、彼らの生活環境の問題から生じていることが多いが、その真のニーズは見えにくく、学校というすべての子どもが通る現場での発見(アウトリーチ)と支援が期待される』と書かれています。
学校が全ての子どもたちにとって安心安全な場になること、また、個別の子どもの支援だけではなく、学校文化の変革にも寄与できる可能性があるスクールソーシャルワーカーについて、解説していきます。
※一部『生活教育』2023年4・5月号(no.827)編集:日本生活教育連盟 に寄稿した物に、加筆修正をしております。
“ソーシャルワーク”の定義とは?
まずは、ソーシャルワークそのものについて説明します。国際ソーシャルワーク連盟が採択したソーシャルワークの定義には以下のように書かれています。
“ソーシャルワーク専門職は、人間の福利(ウェルビーイング)の増進を目指して、社会の変革を進め、人間関係における問題解決を図り、人々のエンパワーメントと解放を促していく。ソーシャルワークは、人間の行動と社会システムに関する理論を利用して、人々がその環境と相互に影響しあう接点に介入する。人権と社会正義の原理は、ソーシャルワークの拠り所とする基盤である(IFSW;2007.7.)”
改めて書かれると少し難しいため、超意訳を用意しました。これは、私、小谷が研修等でソーシャルワークの定義を説明する際に必ず用いているオリジナルの“やさしい日本語訳”です。
“人が人として生きていくためには、心や体の健康だけでなく、社会の中で「ここにいて楽しいな。幸せだな」と思えるようなコミュニティに安心して所属できることも、とても大切。
今いる場所がドキドキしてしまうなら、そこを安心できるように変えていかないといけないわ。でも“安心”って状況によって違うから、その人本人との対話を通して、「安心じゃなくさせているもの」をどうやったら取り除けるのか一緒に考えて、その人が持っている力を最大限に発揮できるように応援していくの。
でも、やみくもに話を聞いて背中をバシバシ叩いて、自分の感覚だけで応援してもダメなのよ。それには、正しい理論を身につけた人が“安心できない場所”とその人との間に何が起こっているのか見極めて「安心」を作るためにはどうしたらいいか考えることがとても重要なの。
そして、もう一つ大切なことがあるの。全ての人々の権利を大切にして、そこに集うみんなに不公平がないようにしていくということは、絶対に忘れてはならないわ。そういうことをシャーシャルワークというし、そういうことをする人をソーシャルワーカーと呼ぶのよ。”
ソーシャルワーカーは、相談を聞いて困っている人を「どこかしらの何かにつなぐ人」と思われがちなのですが、それはソーシャルワークのごく一部です。ある人にとって困っていることと、その困りの原因との境界面に、どのようなことが起こっているのかを見極め(※)、どうしたらその“困っていること”が”困らない状況“になるのかを、困っている当事者の思いを大切にしながら状況を整えることが、ソーシャルワーカーの仕事なのです。
※アセスメント:「その方が今、どのような場所に立たされているか」ということを客観的な情報や本人・家族の言葉から浮かび上がらせる作業のことです。
この“状況を整える”ということを環境調整というのですが、困っていることの中には、もちろん福祉制度が解決してくれることもあるため、既存の物で解決できそうな場合には、
①どこかしらの何かにつなぐお手伝いをします。
(困っている状況を社会制度の仕組みで補うという調整です)
既存の福祉制度では解決できない時には、
②そのような仕組みを作るように働きかけます。
また、困っていることの内容そのものが、マイノリティとマジョリティの見え方の違いから来ている場合には
③マジョリティに対して啓発をします。
また、そういうことでは解決しない、親子、友達同士、先生との関係も、その人にとっての環境の一部ととらえ、
④うまくいかない人間関係の調整も行います。
ソーシャルワークに大切な4つの視点
このようにソーシャルワークは、”環境”という物を幅広く捉え、それらに対して調整をしていくのですが、上記の調整を行う時に、大切にすべき視点についてお話します。
自己決定の視点
自己決定というのは、様々な情報を知り経験した中で決めていくことです。、例えるなら、オレンジジュースしか知らない子どもがいつもオレンジジュースを注文していてもそれは自己決定とは言わず、リンゴジュースもサイダーもコーラもカルピスもいろいろ味わった中で、オレンジジュースを選ぶことが自己決定なのです。
人が物事を決定するためには、その年齢に応じた必要な経験が必要です。それがあるからこそ、適切に判断して進んでいくことができます。それらの経験を提供することができる環境を整えなければ、自己決定をしてくことができません。
機会均等の視点
例えば、階段しかない場所で、車いす利用者が上の階に行きたいと思ったとき「上の階までいつも担いでいきますからエレベーターはつけられませんが大丈夫です」と言われたとします。確かに、いつも担いでもらえるので2階には行くことはできますが、エレベーターがあるとわざわざその場にいる人に頼まなくても自分で(時には介助者と)2階に行くことができます。
結果的に、2階へ行くことができるということよりも”その場所へアクセスできる環境が整っているか”ということが大切であり、アクセスできる環境があることで”その場所に行く or 行かない”の自己決定を、簡単にしやすくなるのです。
そういう、その人が自分の力を最大限に発揮できる環境が整ったうえで、機会が均等にあるということが重要であり、そういう環境になっているのか、ということを見直すことが大切です。
社会モデルで考える
以前は、ある人に何か問題(に見えること)が起こると、それはその人の問題と捉え、今ある社会の枠組みに合うように治療をするという考え方がありました。これを医学モデルといいます。
一方で、社会モデルとは、“個人の問題に見える背景”(障害、家庭環境、人種、国籍、言語的文化的背景の違いなど)と、“社会(国、法律、学校、地域など)が持っている枠組み”とのミスマッチが起こっていると捉え、その個人的な背景が包括されるための社会環境を、どのようにしたら作り出すことができるか、という視点で起こっている出来事を捉えます。
“障壁は社会の側にある”という立場で、個人に責任を帰さないという考え方です。
権利に基づく視点
環境調整を行うためには、その分野の国際的な人権規約とそれに関連する国内法やガイドラインに基づいて行動することが求められます。
障害の分野であれば『障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)(2006.12)』、子どもの分野では『児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)(1989)』がとても大切な規範であり、子どもの権利条約および、障害者の権利条約の理念をもとに、子どもたちを取り巻く環境を安心安全に作り直します。(子どもの権利条約については、過去記事をご参照ください)
そして、その調整は、”環境”に関わるすべての人の権利が守られるような調整でなければなりません。家庭であれば保護者と子ども、学校であれば子どもと教職員双方の権利が大切にされなければならないのです。
上記の視点を大切にしながらアセスメントを行い、人と環境との間にある“安心できない状況”=権利が侵害されている環境に対して、その人自身の自己決定を尊重しながら解決のプロセスに伴走していくことが、ソーシャルワークです。
スクールソーシャルワークについて
上記のソーシャルワークが学校で展開されることがスクールソーシャルワークです。
学校は、子どもの生活の場ですので、主体は子ども。
子どもの生活を見ていくと、子どもが自発的に困ることはほとんどなく、子どもを取りまく環境の中で“困らされている”状態があり、その環境は、家庭の状況、学校制度、先生や友達との関係など多岐にわたります。
仮に、子どもに発達課題があったとしても、その子と環境とのミスマッチに由来する“困り”であり、考えるべきはその子が安心して生活できるような基盤(=環境)をどのように整えるか、ということなのです。
子どもが困っているとすぐに「子どもに支援をいれよう」と考えがちですが、まずはアセスメントをし、ケース会議で浮かび上がった客観的な情報から、子ども自身が直接的な支援を必要としているのか、家族の“困り”なのか、学校環境とのミスマッチなのか、見定めた上で支援を展開していきます。
また、特定の子ども自身への働きかけも大切ですが、すべての子どもが安心できる環境に作り替えていくことも、スクールソーシャルワークの一つです。“困り”)を抱えている子にとって、家庭や学校が、困らなくてもいい仕組みになっているか。適切におとなを頼ることができる状況が作られているか。そういう視点で全体を見渡し、すべての子どもが“困り”を抱え込まなくてもいい学校環境も同時に作っていきます。
教職員との協働
子どもに起こってしまった問題を解決するのに大切な、SSWと教職員との協働。
適切な支援を行うためには、多角的なアセスメントが必要で、SSW、スクールカウンセラーの福祉・心理的な専門性と、教職員の専門性からその子を重層的に見立てていくことで、子ども像が浮かび上がってきます。
しかし、学校に福祉・心理の専門職が入ることで「子どもの困りごとは全て専門家にお任せ」なることもあります。そうなると、アセスメントに必要な教職員の専門性が抜けてしまい、多角的なアセスメントができにくくなります。
アセスメントが適切でないと、表出している困りに対しての本当のニーズにまで支援が届かず“専門家が入っているのに何も変わらない”という現象が生まれます。
学校は、子どもの第二の居場所(家庭:第一の居場所)。子どもが最も多く関わるおとなは学級担任(家庭:保護者)です。一番身近なおとなとの安心した関係の構築は、子どもの学校生活の土台になります。
多角的な見立てのもと、教室や校内でその子にとって何ができるのか考え、福祉・心理・教育の専門家が協働していくことが、子どもの最善の利益につながっていくのです。
まとめ
スクールソーシャルワーカーは、児童虐待や生活困窮、障害、などの“困り”を抱えた児童や家庭を、外部機関につないでくれる人、という見られ方をしています。
しかしこのようにみてみると、SSWは学校に通う子どもたちの安全を作り出すことが一番の役割であり、その役割の中で、個別のケースに対して、外部機関につなぐことがあるだけなのです。
そして、ソーシャルワークの原則の1つ=“その場所にいる人すべての人の権利が守られること”を考えると、SSWの学校配置は、おとな(教職員、保護者)と子どもが安心して通うことができる学校を作る一助にもなると思います。
一方で、SSWの現状を見てみると、全国的にほぼ全てのSSWは非常勤・非正規雇用となっています。雇用数、勤務条件、学校での役割など自治体ごとのばらつきも顕著で、SSWになりたい人たちへの門戸が開かれにくい現状があります。また、SSWが学校に配置された後も、どのように教員と協働して”子どもの最善の利益”に関わっていくのか、手探りの状態が生まれてしまっているのが課題です。
School Voice Projectでは、このような状況が是正され、すべての子どもへの利益になるようなSSWの在り方について、今後も政策提言を行っていきます。
参考文献
- 『スクールソーシャルワーカー実務テキスト』編著:金澤ますみ・奥村賢一・郭理恵・野尻紀恵 学事出版:2022
- 『生活教育』2023年4・5月号(no.827)編集:日本生活教育連盟
- 『福祉施設・学校現場が拓く 児童家庭ソーシャルワーク 子どもとその家族を支援する全ての人に』 編著:櫻井慶一・宮崎正宇 北大路書房:2017
- 『スクールソーシャルワーカーと教師のための校内支援実践マニュアル』 著:大塚美和子 神戸学院大学出版会:2022
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