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“通知表をなくした学校”香川小学校の風土・教職員文化の根っこにあるもの

  • 長島ともこ

香川小を訪問。校長先生、教員の方々の取材をまじえ現地レポート!

2022年11月。香川小を訪問しました。JR相模線香川駅から徒歩で約10分。
のどかな風景が続く「香川小通り」を歩いていくと、3階建ての北棟と4階建ての南棟、二棟に分かれた校舎が見えてきました。

Topic1:対子どもも、対先生も、インクルーシブ

校舎に入ると、南棟の2階には、6年1組、1年1組、1年2組、6年2組、1年3組、6年3組のように異学年が隣り合わせ、南棟の3階にも同じように6年生と1年4~6組までが並び、北棟の1、2階にも、5年生と2年生の教室が隣り合うように並んでいます。

昼休み。

1年生の教室のあちらこちらに6年生が遊びに来て、いっしょにカードゲームをしたり、おしゃべりしたりする姿が見られました。

(休み時間。6年生の教室に1年生が気軽に遊びに来ている。)

「6年生と遊ぶの、楽しいよ」と、1年生。
「1年生? ぎゃあぎゃあうるさいよ(笑)」と言いながらも1年生からいろいろ話しかけられてまんざらでもない様子の6年生。

上級生と下級生の教室が隣り合わせになっていることで、学年を超えたさまざまな交流が自然と生まれているようです。

1階の校長室に移動し、國分校長先生とお話ししていると、数人の児童が校長室を出たり入ったり。
部屋の一角に、児童のものと思われるランドセルが置かれています。

校長室登校の子たちです」と、國分校長先生。

「不登校の子、不登校傾向の子が抱えている問題は一人ひとり異なりますが、子どもにとっては、教室以外でも学校の中に自分が安心できて居心地が良い場所があることが大切です。

その場所が校長室であるなら、まずはそこからスタートすればいい。教室に戻るのに1か月かかる子もいればそれ以上の子もいるし、担任の先生からすると、『早く教室に戻ってきてほしい』と思うものですが、『教室に戻すために何かをするのはやめよう』『まずは子どもを見守り、待つことを最優先しよう』と言っています」

小林さんのお話しにもあった「全校支援」や兄弟クラスの支え合い、不登校や不登校傾向の児童とのこのような関わりから、香川小では、不登校児童の割合が少ない傾向にあるそうです。

また、子どもたちだけでなく教職員同士も支え合う風土が根づいており、香川小ではこの5年間、教職員の療休がゼロなのだそう。

現場の先生方に、学校の雰囲気について聞いてみました。

「雰囲気、すごくいいですよ」というのは、2020年に香川小に異動してきた田上 遥さん。教員14年目で、6年生の担任をつとめています。

「現場の教員が負の話題でつながると、それがだんだん子どもの悪口になっていきやすく、ネガテイブな空気になりやすいですよね。

その点、香川小は、校長先生はじめ管理職の方々がぎすぎすしておらず、おおらかな雰囲気だと感じます。

2020年に異動してきたため教室配置転換や通知表廃止についての議論は経験していないですし、この2つについては正直モヤモヤする部分もありますが、それらはあくまでも枝葉の部分。子どもが楽しく通える学校づくり、学ぶことが楽しいと思える授業づくりなど幹の部分では共有できているので、のびのび教育活動を行うことができています。

授業やクラス運営でうまくいかないことがあっても、職員室で周りの先生や管理職の先生が話を聞いてくれるんですよ。

職員室が『安心できる楽しい場所』というのは大きいですね。自分が助けられているぶん、若い先生たちが大変にならないよういい雰囲気をつくっていきたいと思っています」

「年齢でいうと上から数えたほうが早いおばさんとして(笑)、元気がない様子の先生を見かけたら『疲れてるみたいだけど大丈夫?』など、折にふれて声をかけるようにしています」というのは、2014年から香川小で勤務し3年生の担任をつとめている教務グループのグループリーダーの羽賀晶子さんです。

「校長、教頭、ミドルリーダーがおおらかで安定感があって、『皆をケアしよう』という気持ちを常に持っているんですよね。

残業する先生に『明日できることは明日にして、今日は早く帰ろう』と声をかけたりなど、いい意味でのゆるさもあります。周りにやさしくしてもらえるから、自分も自然と周りにやさしくできる、インクルーシブな職場だと思います」

Topic2:「やってみよう気質」。自分で考えて動ける「縛りのゆるさ」

取材を進めるなか、1年生の担任でカリキュラムグループリーダーの山田剛輔さんから、香川小の学校風土について興味深い言葉が飛び出しました。

それは、「やってみよう気質」。

山田さんが受け持つ1年5組では、2022年度からクラス独自でオリジナルの「スタートカリキュラム」を実施しています。

「文部科学省が提唱するスタイルで行おうとすると、教科をまたいだ形で15~20分きざみの時間割をつくって活動するのが通例なのですが、そもそも学校って、子どもたちが学校に来て、何かの出来事に遭遇したり友達や先生と出会ったりする中で、やりたいことを実現していく場所なのではないかと。

時間割という枠をあえてつくらず、毎朝子どもたちに『今日は何したい?』と聞きながら日々の活動を行っています」

入学直後の子どもたちから「やりたい!」と声があがった「学校探検」を行ううち、教室表示が漢字で書かれていて何の教室かわからないから、ひらがなを学習しながら教室の看板をつくって掲示しよう! と「教室表示プロジェクト」がスタート。

校内で廃木となった桜の木を活用し、クラスの皆で作った「おんがくしつ」の看板は、1年生らしい文字と木の温もりがマッチし、とても素朴な佇まいです。

「自分の思いや願いを授業で表したい、こんなことをやってみたいと思ったら、それを実現しやすい風土が香川小にはありますね。國分校長の度量によるところが大きいと思います」(山田さん)

当の國分校長は、

「子どもたちの個を認めるのと同様先生たちの個も認めようと。着任当初から、『プロの教員として、やりたいことをやってください』と皆に伝えていました。

現場の先生から『◯◯をやってみていいですか?』と聞かれるたびに、『自分たちがいいと思うならやってみたらどうですか』と答えていましたね。ある意味校長としての度量の広さを試されていたのかもしれませんが、どんなに小さなことに対しても基本的にGOサインを出すうちに、多くの先生に『自分がやってみたいことを本当にやっていいんだ』と思ってもらえるようになりました。

もちろん、ケースによっては結論を先延ばしにしたり、振り出しに戻したりすることもあります。やってみてうまくいかなかったら素直に謝り、別の方法を考えたり軌道修正すればいいんです。失敗をおそれ、先生同士が萎縮しあってしまうような職場にだけはしたくなかったですね」といいます。

山田さんの、一教員としてのスタートカリキュラムの取り組み、教室配置転換や通知表廃止といった学校をあげての取り組みは、香川小ならではのやってみよう気質や自分で考えて動ける縛りのゆるさがあるからこそ実現したことがわかります。

Topic3:ざっくばらんで「決めない」ところから対話が生まれる

先生方への取材を進めるなかで良く耳にしたのは、「地域性」という言葉です。

教職員組合の活動が活発なこともあり、もともと地域全体でトップダウンの土壌があまりなく、みんなの意見がざっくばらんに聞ける場が多いということも、独自のボトムアップ文化につながっていることが感じ取れました。

良い意味でのゆるさがあり「決め事も少ない」という香川小では、「テーマを決めずに行う会議」や「あえて結論を出さない会議」も存在するそうです。

(放課後の職員室。打ち合わせや情報共有など、教職員同士のコミュニケーションが活発に行われている。)

「多忙化が進まないよう配慮しながら、教職員同士が自由に話せる機会をもうけています。キャリアや立場に関わらずひらばでひらたくものがいえる空気が職場に常にただよっていることで、影響力のある先生の意見がバンと通るのではなく、このような場から出た意見をすいあげて物事が進んでいくことが多いですね」と、羽賀さん。

「教室配置転換にしても通知表の廃止にしても、皆で長い時間をかけて議論しているから、そのテーマが教職員一人ひとりの中に常にぶらさがっているような状態なんですよね。だから自然と主体的に考えるようになるし、日々自分自身に問いかけながら仕事しているから、議論や対話が日常的になるのではないかと思います」という言葉も印象的でした。

運動会などの学校行事の内容も、「今年度は◯◯だったから、次年度は△△にしよう」などときっちり決めていないそうです。

「コロナ禍でさまざまな制限がかかった運動会が続き、さて今年はどうしようと。去年、僕と山田さんのそれぞれの学年が、クラス対抗で競い合うのではなく、クラスごとに練習のときの自己ベストタイムを出して、本番でそれを越えられるか挑戦する方式を取り入れたところ、子どもたちが本気で取り組む姿を見ることができて『あれ良かったよね』と。

今年はそれが全校に広がり、従来のように点数をつけて評価したり競い合ったりするような運動会ではなく、『香川小らしい、子どもたち自身が目標をもって参加できるような運動会にしてはどうか』と話し合いながら準備を進めました」と、小林さん。

結果、順位を競い合う徒競走やリレー競技は、今回の運動会では実施されないことに。

クラスごとの目標タイムをクリアできるかを競う競技に加え、「声を出した応援ができないかわりに、タオルを回したりみんなでシャボン玉をとばしたりしよう」など、さまざまなアイデアが出ました。

「そうこうしているうちに、子どもたちからも『おうちの人の参観入れ替えの時間を利用して、先生と子どもによる競技を入れよう』などアイデアが出るようになり、当日は非常に盛り上がりましたね。15年教員やってていちばん楽しい運動会だったと思いますし、地域の方から感謝のお手紙もいただきました。勝った負けたではなく純粋に運動を楽しむ、香川小らしい運動会が実現したと思います」(小林さん)

まとめ

今回の取材を通して強く感じたのは、香川小では、校長先生とはじめとする管理職の先生やミドルリーダーの先生による支援型リーダーシップのもと、管理的ではなくおおらかな空気の中で多くの先生たちが日常的に共感的対話を重ね、建設的に意見を交換する機会ができていること、学年・教科・分掌といった既存の組織がしっかり機能し、学校改善に向けた取り組みが「管理職や担当の先生にお任せ」ではなく、先生たち全員の協働的な取り組みとして自律的に行われていることです。

とはいえ、通知表廃止については、取り組みを始めてもうすぐ3年がたつものの、その効果については現時点では未知数の部分も多く、保護者から厳しい意見が寄せられることもあるといいます。

取材中、何人かの児童に通知表について聞いてみましたが、『自分がこれから何をがんばればいいかわからないから、通知表はあったほうがいいと思う』という声もありました。

子どもたちを取り巻く状況は日々変化し、どんな学校にもあてはまる絶対的正解や、完成された教育の形は存在しないといっても過言ではありません。

常に未完であるからこそ、自分たちが当事者として手探りで対話を重ねながら、学校を動かしていく。

さらなる進化に向け、香川小の試行錯誤はまだまだ続きます。

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長島ともこ

フリーライター、エディター。 明治大学卒業後、出版社、制作会社勤務を経てフリーに。教育、子育て、PTAなどの分野で取材、執筆、企画、編集を行う。教育分野では、ICT教育、教職員の働き方、授業実践事例や学校づくり等をテーマに取材。著書に「PTA広報誌づくりがウソのように楽しくラクになる本」「卒対を楽しくラクに乗り切る本」(共に厚有出版)、執筆協力に「学校ってなんだろう」(学事出版)などがある。 認定子育てアドバイザー。

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